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2006年4月 9日 (日)

ミュンヘン

Earth1 2005年 アメリカ
監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:トニー・クシュナー、エリック・ロス
撮影:ヤヌス・カミンスキー
美術:ロッド・マクリーン
音楽:ジョン・ウィリアムス
出演:エリック・バナ、ダニエル・クレイグ、キアラン・ハインズ
    マチュ-・カソヴィッツ、ハンス・ジシュラー
    ジェフリー・ラッシュ

  スティーヴン・スピルバーグ。ジョージ・ルーカスと並び、日本でも絶大な人気を誇る超有名監督である。しかし彼は巨匠と呼べるだろうか。こういう疑問を呈したくなるのも、彼の作品にすぐれたものはあまりないのではないかと思っているからである。もし彼の映画からマイ・ベスト5を選ぶとすれば次のようになる。

1 「シンドラーのリスト」
2 「プライベート・ライアン」
3 「カラー・パープル」
4 「激突!」
5 「ET」

  「アミスタッド」は観ていないが、ベスト5に入る可能性はある。4位までは割りとすぐに決まったが、5位には悩んだ。「JAWS」、「未知との遭遇」、「インディ・ジョーンズ」シリーズ、「ジュラシック・パーク」シリーズ、「宇宙戦争」、どれも悪くはないが今ひとつだ。有名度で「ET」を選んだ。ベスト5で苦労するとすれば巨匠とは呼べないのではないか、そう思うのだ。

  先週末、映画館で「ミュンヘン」を観てきた。「オリバー・ツイスト」よりこちらを先に見たのだが、今ひとつ「ミュンヘン」には気が乗らないので、順序が逆になってしまった。「ミュンヘン」には賛否両論あるようだ。僕自身の評価はどちらかと言えば否定的である。テーマの描き方が一貫していたかどうか、その点に関して疑問があるからだ。

  かつて80年代半ばにベトナム戦争を描いた「プラトーン」を巡って大論争が巻き起こった。各種雑誌が特集を組み、連日のように新聞に賛否両論の投書が載っていた。これほどの論争はあれ以来なかったと思う。その論争を整理した文章を当時書いていたので引用しておこう。

  ベトナムの戦場でのアメリカ軍の実体を偏見なく正面から見据えた映像の迫真性、戦場での兵士の極限状態と異常心理、残虐行為、仲間同士の殺し合い、死と隣り合わせの恐怖、軍隊内の退廃や亀裂などが、体験者のみが描ける生々しさで圧倒的な音響効果とともに観客に投げ付けられる。アメリカで公開された時、深い沈黙が劇場内をおしつつんでいたという事実が、いかにこの映画がアメリカの国民にとってショッキングであったかを物語っている。だが、他方で様々な批判の声も寄せられている。それらの批判をまとめると、「プラトーン」はベトナム戦争の一部を局部的にとらえたものに過ぎず、ベトナム人は最後まで「対象」化され、西部劇のインディアン同様にあくまで「敵」であり、したがって侵略戦争としてのベトナム戦争の本質がとらえられていない、ということになるだろう。こ の批判は重要であり、かつ正当だろう。要するに、この映画は一兵士の眼を通して描かれているために、戦場での赤裸々な人間の葛藤や悲惨な実情が直接的に伝えられているが、この「直接性」が一方で作品の視野に限界を与えてしまっているということなのだ。つまり、主人公の視点の限界を作品それ自体が乗り越えられなかったために、主人公の認識の限界がほとんどそのまま作品自体の限界になってしまっているということなのだ。もっとも、このような形になったのはプロデューサー側の「意向」があったのかも知れない。しかいいずれにせよ、ベトナム戦争に対してこれ程真摯な姿勢を示した作品が現れたことを決して過小評価すべきではない。
  「世界映画の現況(その6)」1987年6月29日

  ほぼ20年前の古い文章だが(本館HP「緑の杜のゴブリン」の「電影時光」コーナーに収録してあります)、論争の要点はつかめると思う。「プラトーン」はなぜアメリカ兵がベトナムにいるのかを真摯に考察した映画だが、一方で迷彩服を着た若者たちが肩を怒らせて満足げに劇場を去って行くような映画でもあった。わざわざ長い引用をしたのも、同じような印象を「ミュンヘン」から受けたからである。

  前売り券を買って劇場まで出かけていって「ミュンヘン」を観たのは、自分の使命に次第に疑問を持ち始めてゆくテロリストを描いていると言われていたからである。期待はずれという批判も眼にしてはいたがそれなりに期待してはいた。

  1972年のミュンヘン・オリンピック開催中にパレスチナ・ゲリラがイスラエル選手団を襲撃する場面から始まり、報復のために結成された暗殺チームが今度はアラブのテロリスト指導者を次々に暗殺してゆく。アヴナー(エリック・バナ)をリーダーとする暗殺チームは、急ごしらえの上に特別な訓練を受けたエキスパートたちでもない。爆弾のスペシャリストという触れ込みのロバート(マチュ-・カソヴィッツ)はなんと爆弾を仕掛ける方ではなく解除する方の専門家だった。そんなわけで最初の何回かは爆薬の適量が分からず、爆発が小Waveleaf さすぎたり大きすぎたりしてなかなかうまくいかない。それがちょっとしたユーモラスな味付けになっている、全体としては暗殺にいたるまでのプロセスを息詰まるような迫真力で描いてゆく。まるで自分が戦場にいるかのようなリアリティでノルマンディー上陸作戦を描いた「プライベート・ライアン」の手法を連想すればいい。テロリスト指導者暗殺のプロセスが何度も繰り返し描かれる。最後に主人公が自分たちのやっている行為の意義を見失っていく様子も描かれるが、中途半端で終わっていると言わざるを得ない。むしろ全体としてみれば、暗殺チームの活躍を描いたエンターテインメント映画だったという気がする。

   昨年の1月に上田で大林宣彦監督の講演を聞いたことがあるが、その中で彼はツイン・タワーを襲ったテロの映像について語っていた。あれを観たとき彼は「やられた」と思ったそうである。あの9.11の映像はそれまでの映画を無力にしてしまうほどの圧倒的迫力があった。自分たちはそれまで何をやっていたのか。彼ら映画人は自分たちの映画つくりの根本的見直しを迫られた。あれを超えなければならない。単に迫力ある映像を作ると言う意味ではなく、テロを否定し平和への願いを込めた映画を作らなければならない。

  あの貿易センターの映像は確かにすさまじいものだった。突然テレビの画面が切り替わり、ヘリコプターから撮った黒煙を上げているツイン・タワーの映像が映し出された。誰もが最初は何がなんだか分からなかった。やがてそれがライブ映像であり、テロリストに乗っ取られた旅客機が貿易センタービルの片方に激突したことがようやく分かってくる。そうこうしているうちに2機目が突っ込み、ついにはツイン・タワーが相次いで崩壊し始める。まるでスローモーションのように上からゆっくりと真下に崩れ落ちてゆく巨大タワー。地上ではまるで火砕流のように噴煙が舞い上がる。その一部始終が息を呑んで見つめる全世界の人たちの目の前で展開された。世界同時上映されたテロのロードショー。世界が初めて体験した世界同時中継によるテロ現場の目撃。大林監督の言うとおりである。どんな映画もなしえなかった未曾有の映像をわれわれは体験したのである。

  現場に密着した映像はそれだけで観るものの目を奪ってしまう。「ミュンヘン」ではテロ行為の詳細な描写が大部分を占め、最後に込めようとしたテロリストたちの心の葛藤をわきに追いやってしまった。何か中途半端で、釈然としないままに終わってしまった。おそらく「ミュンヘン」に感じる不満はそこにある。テーマと娯楽性のバランスを間違えていないか?これではただのヴァイオレンス・スリラーだ。

  対象に密着すればするほどリアルな映像になるが、その分視野が狭くなる。行為自体がメインになり、是非の判断は後ろに遠のく。実際暗殺チーム自体も同じだったろう。個人的に憎しみを感じているわけではない相手の暗殺行為を着々と実行してゆくだけ。爆破シーンや射殺シーンが極めてリアルに描かれていく。肉体が砕け散り、血が飛び散るリアルなテロ行為の再現映像に力を込すぎ、同じパターンを淡々と繰り返すので、最後の頃になってやっと描かれる主人公の苦悩があまり伝わってこないのだ。暗殺すべき男の娘を危うく巻き込みそうになって危うく爆破を止めたりするシーンも出てくるが、じっくり考える時間を観客に与えず、むしろはらはらどきどきの緊張した場面を作ることに狙いがあったようにも感じる。暗殺の対象となる男たちが誰一人テロリストらしく見えない、むしろごく普通の生活をしている男たちだという描き方は確かにされている。ただ、それは暗殺のプロセスの中でさっと描かれているに過ぎない。主人公たちの苦悩も十分には描かれない。

  どんなに迫力ある映像を作り上げたとしてもそれだけでは十分な意味を持ち得ない。一つの完結した作品として作られる以上、テーマとの結びつきや構成がしっかりしていなければすぐれた作品にはならない。9.11テロの映像も用い方しだいではテロへの批判にもなるし、テロの教科書にもなる。生命保険のコマーシャルにすることすら可能だ。やはり肝心なのはテーマなのだ。そのテーマの描き方が弱い。

  彼が暗殺した男たちも冷酷なテロリストではなく普通の人間ばかりだ。家族を愛する同じ人間同士。愛国心に動かされ使命を果たしてきたが、自分たちのやっていることはテロリストたちのやっていることとどこが違うのか。やがて仲間も殺され、彼らも狙われる側に回る。むなしい殺人行為。たとえ何人殺してもその穴をまた別のものが埋める。自分たちの行為は正義なのか。報復にどんな大儀があると言うのか。テロでテロに対抗しても解決にはならない。暴力の連鎖を生むだけだ。アヴナーはパレスチナの指導者たちを暗殺してゆくうちにそのことに気づく。悩んだ末彼は大儀を見失い、国も失う。彼はアメリカに移住する。国家のために戦うことをやめたとき、彼は愛する家族との安らぎの日々を手に入れることが出来た。

  確かにそういう風に描かれてはいる。しかし暗殺のプロセスを描くほどには彼の心のゆれはリアルに描かれない。だから今ひとつ説得力を感じない。彼らの苦悩や迷いが十分描かれないのは、そうするためにはイスラエルやアメリカの姿勢により徹底した批判を加えることになるからだろう。そこまで踏み込めなかったのはユダヤ人ヒューマニストである彼の限界だったのだろうか。いずれにしても最後に残るのは怒りでも批判でもない、むなしさである。

 次回はケン・ローチ監督の「やさしくキスをして」を取り上げます。

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コメント

カゴメさん コメントありがとうございます。
あの女性殺害場面は強烈でしたね。女性テロリストを美人にしているのは意図的でしょう。かなり扇情的です。

あの場面がやけに強く印象に残るのはご指摘の通りうまく作品のテーマに絡められていないからでしょう。単なる見せ場で終わっているということなのかもしれません。

題材もテーマもいいと思うのですが、やはりいまひとつ胸に迫ってこないのはエンターテインメントに傾いているからではないでしょうか。

この映画で一番印象に残ってるのは、
オランダ娘の暗殺者を殺害する場面です。
あそこで一気に、
「復讐の為の人殺し」になってしまったですね。
国家の命によるものではなく、
仲間を殺された憤激に易々と身を任せて殺してしまう。
とても象徴的な場面なのに活かされてないのが惜しいと思いました。
その上、アジトで同居する事になったPLOのテロリストに、
かなり陳腐な台詞を吐かせてるのが、とても残念であります。
ちょっと腰の座りの悪い作品だなぁぁ、やっぱり(苦笑)。

 ほんやら堂さん TB&コメントありがとうございます。
 僕はスピルバーグの主張自体には共感できるのですが、テロのリアルな描写とテーマのバランスが前者に傾きすぎているためバランスが悪くなっていると感じました。その点が残念に思います。
 ロープシンの『蒼ざめた馬』は昔よく書店で見かけましたね。ずっと気になってはいたのですがまだ読んでいません。確か映画化もされていたと思ういますがそちらも未見です。今度機会があったら読んで見ます。

ゴブリンさんこんにちは.
確かにスピルバーグの評価というのは難しいですね.しかし僕はこの映画は納得のいくものでした.
ユダヤ人スピルバーグがこの問題をどう描くかという点では,負の期待感が大きかったので,わりに真っ正面から捉えた描き方に腑に落ちるものがあったようです.
昔,ロープシンの「蒼ざめた馬」という左翼エスエル戦闘団のテロリスト達の物語を読みました.
「ミュンヘン」の物語は,「蒼ざめた馬」を久しぶりに思い出させてくれたようです.

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日記:2006年8月某日 映画「ミュンヘン」を見る. 2005年.監督:スティーブン・スピルバーグ. エリック・バナ,ダニエル・クレイグ,キアラン・ハインズ,マチュー・カソヴィッツ,ハンス・ジシュラー... [続きを読む]

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