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2006年3月 6日 (月)

大いなる休暇

tea-blue 2003年 カナダ
原題:La Grande Seduction
監督:ジャン=フランソワ・プリオ
脚本:ケン・スコット
撮影:アレン・スミス
美術:ノーマン・サラザン
音楽:ジャン=マリー・ブノワ
衣装:ルイーズ・ガニエ
出演:レイモン・ブシャール、デヴィッド・ブータン
    ブノワ・ブリエール、リュシー・ロリエ
   ピエール・コラン、リタ・ラフォンテーヌ、クレモンス・デロシェ

  カナダ製作の愛すべきほのぼのコメディである。このところカナダ映画の活躍はなかなか目覚しい。人口が少ないのでカナダ独自の映画はあまり作れないが、資本参加という形で結構多くの映画を共同制作している。2003年のアカデミー賞外国語映画賞を受賞した「みなさん、さようなら。」はその数少ないカナダ映画の代表作だが、「大いなる休暇」はそれを抑えて2003年にカナダでナンバー1のヒットを記録した作品である。「ボウリング・フォー・コロンバイン」で、カナダもかなり銃の保有率は高いが銃の絡んだ犯罪は少ないことが紹介されている。今でも家に鍵をかけないところが多い。そんなのんびりした国の映画。しかも舞台は人口がたった125人しかいない小さな島、サントマリ・ラモデルヌ島(架空の島、撮影はケベック州北部にあるハーリントンハーバーという陸の孤島と呼ばれる小さな町で行われた)という設定。

  話はしごく単純。かつて漁業で栄え活気に溢れていた島も漁業がすたれてから次第に活気を失っていった。島民たちはもう8年間もわずかな失業手当に頼って暮らしている。何とか島おこしをしたいこの島に大規模なプラスチック工場誘致の話が持ち上がる。しかし、工場を誘致する条件として島に定住する医者が必要だった。長い間無医島だった島の住民たちはお医者さん獲得のため村を挙げて大作戦を展開する。

  「Dr.コトー診療所」みたいな話だが、ストーリーはむしろイギリス映画の傑作「ウェールズの山」に近い。ウェールズの小さな村にある日イングランド人の測量技師が二人やってくる。地図作成のため山の高さを測量していったのだが、結果は1000フィート(これを越えないと山とみなされない)にわずかに足らず、山ではなく丘だということになった。これを知ったウェールズ人たちは怒り狂う。ローマ占領時代からふるさとを敵から守ってきた郷土の誇りの山を「丘」だとは何事か。イングランド人(アングロサクソン系)に対するウェールズ人(ケルト系、独自のウェールズ語もある)の敵対意識が燃え上がり、ついにはあの手この手で二人のイングランド人を引きとめ、その間に村人総出で山のふもとから土を頂上に運び上げ、何とか「山」にしてしまおうというユーモラスな作品である(原題は「丘に登り山を降りてきたイングランド人」)。最後にはイングランド人も村人と仲良くなり、一人は村の娘(「ブラス!」のタラちゃんです)と結婚することになる。スコットランドよりずっと早くイギリスに併合されたとはいえ、もともとは別の国。映画の最初のせりふは「誰か英語を話せるものはいないか?」で、「ここは外国だ」と言うせりふも出てくる。イングランド人にバカにされてたまるかというウェールズ魂に共感してしまう。「大いなる休暇」に民族意識の要素はないが、寒村と都会の対比、産業もなく寂れた村に住む人々の誇りが描かれており、ストーリー展開も含めよく似ている。

  村人にだまされるのは美容整形を専門とする青年医師クリストファー・ルイス。島に見切りをつけてモントリオールで警官になった元町長が彼をコカイン所持で捕まえ、格好の「犠牲者」として島に送り込んできたのだ。クリストファーはモントリオールで都会生活をしてきたので、島で与えられた家の内装やインテリアを「趣味が悪い」と散々こき下ろしたりする。そんなクリストファーに何とか島を気に入ってもらって定住してもらおうと切羽詰った島民が智恵を振り絞って一芝居打つ。

  イギリス関連で面白いのは、なぜか彼がクリケット好きだということ。舞台になったケベック州はカナダのフランス語圏で、映画のせりふも全部フランス語である。その彼がなぜイギリスの伝統的スポーツであるクリケットを好きになったのか何の説明もない。おそらく英語圏のほうにクリケット好きの知り合いでもいたのだろう。ともかく、このクリケットに絡む話がこっけいだ。クリケットといえばイギリスでは上流のスポーツ。階級社会のイギリスでは、中流はラグビー、庶民はサッカーとスポーツの好みも分かれている。以前何かのレビューに書いたが、クリケットのルールはさっぱり理解できない。一度直接イギリス人に聞いたことがあるが、いくら聞いても理解できなかった。とにかく1試合終わるのに長い場合は1週間もかかるというのだから、金と暇のある金持ちにしかできないスポーツであるのは確かだ。2、3年前にもっと早く試合が終わるようルールを改正する動きが出ているという記事を新聞で読んだことがある。

  それはともかく、カナダ人にもクリケットがどんなものかさっぱり理解できなかったようだ。何とかクリストファーの気を引こうとユニフォームや道具(あのバットのようなものは船の櫂を加工して作った)を作り、一夜漬けでルールを読んで(もちろんさっぱり理解できない)真似事をしてみせる。船で島にやってきたクリストファーが海岸近くで行われているクリケットの試合(決勝戦という触れ込み)を見て、上陸して近くで見てみたいと突然言い出して大慌てになるシーンが可笑しい。とっさにみんなで万歳をして試合が終わったことにするが、船に戻りながらクリストファーは「両方とも優勝したのか?」と首をひねっている。変だと気づきそうなものだが、最後まで変だと気づかないところがコメディたるゆえん。ケベック州は独立の動きを見せているようだが、クリケットを持ち出してきたのはカナダの英語圏を意識してのブラック・ユーモアかもしれない(衛星放送でクリケットの試合を流しているらしいのでそれなりに観る人もいるのだろう)。

  もう一つクリケットがらみで傑作な場面がある。村唯一のレストランでみんながクリケットの試合をテレビで観戦している。クリストファー一人が興奮して観ている。クリストファーがトイレに行っている間に誰かがテレビ画面をクリケットからアイスホッケーに変えてしまう。それまでつまらなそうに観戦していた村人がいっせいに身を乗り出し、本気で興奮し始める。sea1 口々にクリケットなんて何が面白いのかさっぱり分からん、あんなのはスポーツではないと散々こき下ろす。どよめく歓声に得点が入ったかとあわててトイレから出てきたクリストファーに、村の銀行員がしどろもどろで見てもいない試合の経過を説明する。国の文化の違いが見えて実に面白い場面だった。

  他にもあちこちにくすくす笑いたくなるような工夫が凝らされている。人は何に一番喜ぶかというアイデアを出し合って、お金を拾うのが一番うれしいというので毎晩クリストファーが通る道端のランタンの下に札を挟んで置いたり、さっぱり魚がつれないクリストファーの針に冷凍の魚を引っ掛けたりと、とても効果があるとは思えない「工夫」をするところが逆に可笑しい。どうやっても見栄えが良くならない家に市長がとった苦心の解決策には笑ってしまった。はてはクリストファーの動向をうかがうために電話の盗聴まで仕組む。盗み聞きで仕入れた謎の「マシン」と足の関係にみんなが振り回されるあたりもこっけいだ。しかしあまりに常套手段過ぎてどうかと思う場面もある。島民が200名以上いないと工場が誘致できないと知ると、視察に来た工場責任者の動きに合わせて島民が服を着替えて別の場所に移動するあたりがそうだ。どたばた劇にありがちな設定であまり笑えない。

  映画全体としても簡単に先が読めてしまい、結末も特にひねりもないのでさほど出来が良いとは言いがたい。ただ出色なのは島の抱えている問題を笑いに紛らすことなくきちんと描きこんでいたことである。映画の冒頭で島の男がぞろぞろと集まってきて郵便局の前に行列をつくっている場面が描かれる。生活保護の書類を受け取っていたのである。行列はそのまま銀行に移動し、またズラリと並んで現金に換える。銀行員が預金しないかと言っても誰も「はい」と言わない。村人のほとんどが生活保護でやっと生活しているからである。かつての海の男のプライドもすっかり傷ついているのだ。行列は映画の中ほどにも出てくる。こちらはクリストファーに診てもらおうと並んでいる患者の列だ。村人はみな何かの病気を抱えている。長い間医者がいなかったので、みな本当に医者を必要としているのである。失業手当を受け取る長い列と病院の前に並ぶ長い列。この長い列がこの島の現状を象徴的に表している。

  同じカナダの島でも『赤毛のアン』のプリンス・エドワード島とはまったく違う、活気のうせた貧しい島。短期間だけ滞在する旅行者の目にはのんびりとのどかで平和な風景と穏やかなスロ一ライフがうらやましく映るかもしれないが、実は高齢化が進み、村には失業者があふれている。教会には牧師さえいない。漁業がすたれた今では他にこれといった地場産業もない。郵便局も銀行も職員は一人、レストランは一軒しかない。衛星放送が入るテレビは村で1台だけ。携帯も届かない(携帯を使われると盗聴できないので、うそをついたのかもしれないが)離れ小島。何とか島に工場を誘致して村に産業を育てたいという気持ちは十分理解できる。この点をしっかり描いたこと、そして何よりも島に暮らす人々の地に足がついた生活を彼らの視点で描いたことがこの映画に単なるどたばたコメディ以上の価値を与えている。

  ある日クリストファーは恋人のブリジットにだまされていたのを知り、自棄酒を飲んでみんなで僕をだましていたと酔っ払って嘆いていた。新市長のジェルマン(レイモン・ブシャール)はそれを聞き、村中で彼をだましていることを後悔し始める。いつものように教会で集会を開いて、もうだますのをやめようとジェルマンは提案する。このあたりからコメディ調が薄れ、幾分シリアスな色調が混じってくる。そしてついに真相を知ったクリストファーがジェルマンを問い詰める結末へ。詳しくは見てもらうとして、ラストはもちろんハッピー・エンディングである。そんなことならわざわざこんな遠回りしなくても最初からはっきり頼めばよかったのに。そう思えてしまうところがまた可笑しい。人をだます話なのに島民たちの必死の努力に共感してしまうのは、なんとしても経済的に自立して自分たちの誇りを取り戻したいと願う彼らの気持ちが伝わってくるからであり、彼らをそうさせている島の現状をきちんと描きこんでいたからである。ただのATMだと揶揄されながらも村のために何とか工場の誘致費5万ドルを工面しようとした銀行員アンリ(ブノワ・ブリエール)の涙ぐましい努力には、笑いの中にほろ苦さが混じっている。

  傑作とは呼べないが、明るいユーモアと人情に包まれたほのぼのとした味わいには捨てがたい魅力がある。最初と最後に出てくる島民たちの夜の生活、明かりが消えあちこちから女性の声が漏れてくる、やがてまた小さな明かりがつき、家々の煙突から煙が立ち昇る。生活環境は変わっても村人の基本的な生活は変わらない。全体を包む、ゆったりとしたリズムが心地よい。

  出演しているのはほとんど知らない俳優たちだが、とても個性的で味がある俳優ぞろいだ。ジェルマンを演じたレイモン・ブシャール、クリストファー役のデヴィッド・ブータン、銀行員アンリ役のブノワ・ブリエールの他に、一生涯島から出たことのないイヴォンを演じたピエール・コランとクリストファーを魅了する村一番の美女を演じたリュシー・ロリエも実に魅力的だ。監督のジャン=フランソワ・プリオは本作が初の長編映画。CM業界でも数多くの作品を手掛け、カンヌ広告映画祭ではシルバーベアー賞を受賞している。脚本はスタンダップコメディアンとしてカナダでは有名なケン・スコット。劇中に偽医者役で登場している。

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コメント

 GMNさん コメントありがとうございます。
 村人こぞって一人の男をだます映画ですが、そこに悪意がなく、コメディ・タッチなのでほのぼのした笑いが立ち上ってきます。村の深刻な状況が背景にあるので、村人たちも必死なのですが、その工夫があまりにスマートでないので、逆に笑えるのですね。
 いかにもカナダらしいおおらかな映画で、僕も楽しめました。

何故フランス語なんだろう?と思ってましたが
カナダにフランス語圏の場所なんてのがあるんですね。
勉強になりました。
クリケットもご存知だとはお目が高い。
私はクリケットって何だ?って村人気分を味わいました(笑)

マイナーな作品故に、前知識の一切無い状態で観たんですが
良い拾い物をしたなって感じで、幸せな気分で劇場を後に
できた作品でしたよ。

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