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2006年1月25日 (水)

村の写真集

_0372004年 日本
監督・脚本:三原光尋
撮影:本田茂
音楽:小椋佳
出演:藤竜也、海東健、宮地真緒、甲本雅裕、桜むつ子
    吹石一恵、大杉漣、原田知世、 ペース・ウー

  僕がまだ学生の頃だったろうか。理由は忘れたが父と常磐線に乗っていた。窓の外は延々田んぼが続く。「茨城は本当に田舎だな」と思わず僕が言うと、その言葉に馬鹿にしたような響きを感じ取ったのだろう、父がすかさず「田舎がなければ人は生きてゆけない」と言った。その言葉にはっとなった。確かに都会人は旅行に行くときには必ず田舎に行く。普段は便利な都会に住んでいるが、羽を伸ばそうと思ったときには田舎に行く。日本中すべて都会ばかりだったならば、人間は一体どこでほっと息をつくのか。

  「村の写真集」は日本版「山の郵便配達」である。父と息子が並んで山を歩くという意味でも、父が息子に何事かを伝えるための「旅」という意味でも、そして「親父の背中」映画という意味でも。ダムに沈もうとしている村の人々を写真に残すために、村の写真家が東京から呼び戻した息子を連れて山を歩いて上り、一軒一軒家を訪ね歩いてゆく。舞台となった徳島県の山間部、池田町、山城町、西祖谷山村などの風景が実に美しい。親父は何も言わず、教えず、ただ黙々と山を登り写真を撮る。息子は反撥を感じながら親父についてゆき、その背中から何かを感じ取る。昔ながらの親父気質、不言実行。そして昔ながらの職人気質、習うのではなく見て盗め。

  ここで問題提起を一つ。なぜ美しい村の風景ではなく、村人を撮るのか。答えはいくつか考えられる。美しい山村の景色をこれでもかとばかり撮れば却ってそのインパクトが失われるし、単なる徳島観光案内映画になってしまいかねない。ストーリーも痩せてしまうだろう。幸い「村の写真集」は適度に美しい風景を織り込む程度で抑えているために、ところどころ映し出された山の風景がかなりのインパクトを与えている。そしてもう一つの理由は、恐らく「山の郵便配達」を意識しているからだ。手紙などの郵便物は人と人をつなぐ「絆」である。郵便配達は一軒一軒回りながら家族の近況を伝えたり、祝い事や親の死などを伝える。美しい山は単なる風景ではなく、人間が済み生活を営んでいる生活の舞台である。あくまで人間が主役なのである。郵便配達が歩く道は人々をつなぐ線である。美しい風景を撮るだけなら人と接する機会はそれだけ減る。いやでもドラマは父と息子の関係だけに絞られてしまう。だから「村の写真集」も単なる風景ではなく人間を撮るのだろう。

  父親は体が病で弱っていたにもかかわらず、頑固に険しい山道を歩き、一軒一軒訪れて写真を撮り続ける。息子の孝は車で行った方が能率的だろうというが、父親は自分の信念を変えようとしない。何度も父親と撮影を共にしてようやく息子も「歩かないと見えてこないものがある」ということに気付く。車で行っては見過ごしてしまうもの。それは何だろうか。父親が山を降りる途中息子を案内した絶景のビュー・ポイントがあった。これもその一つだろう。もちろんそれだけではない。山の斜面に住む人たちが毎日のように上り下りする山道、その苦労を自ら体験しなければ彼らの生活を撮れない。そういう考えもあっただろう。韓国映画「おばあちゃんの家」で何度も家の前の斜面を上り下りするおばあちゃんの姿が重なる。何気なく咲いている道端の花や微妙な季節の変化なども歩きでなくては気付かない。あるいは、わざわざ重い機材を抱えて山道を上り下りする苦行に精神修行の様な重みを込めるという意味合いもあるかもしれない。歩けなくなった父親を背負う場面にはその色合いが濃厚だ。日本人には割合すっと入ってくる考えかたである。彼らの歩みは映画自体のゆったりとしたリズムと重なる。時間がたゆたうように流れてゆく。

  「山の郵便配達」を意識している以上、描かれるテーマも共通している。村に住む人々との心の通い合い、父と息子の葛藤と絆、家族の絆、故郷の風景へのノスタルジア。「山の郵便配達」はこれらのテーマを実にバランスよく描いていた。しかし「村の写真集」は「山の郵便配達」と比べると、村人との交流が十分描けていない。「山の郵便配達」にはなんでもないことながら、印象深いシーンがたくさんあった。手紙を届ける際にちょっと交わす一言、あるいは字が読めない老人に手紙を音読してやる、等々。「村の写真集」でこれに匹敵するのは戦争で亡くした息子の写真を大事に抱えて息子の帰りを待つ老婆(桜むつ子)のエピソードくらいではないか。「帰ってきた時に私がいないと寂しいだろうから」と言って村を離れようとしない。写真屋親子はもっと村人と言葉を交わすべきだった。ただ人々の写真を撮るだけではなく、そこに人々の生活や思い出を映しこむべきだった。だが、むしろ写真を撮る父親の姿を映してしまう。なぜならそこにどうしたらいい写真が撮れるのかというテーマが絡んでくるからである。その結果父子の関係の方に力点が置かれる。

  ところがこの父子、演技力からいえば相当なアンバランスがある。父親役の藤竜也はしだいに体が弱ってゆくにもかかわらず、決して信念を曲げない頑固な父親像を余すところなく演じきった。近年の彼は渋さが光る。この映画は彼でもっているようなものだ。藤竜也は息子役の海東健と「海猿」でも共演しているが、そこでも経験豊かで、厳しさの中に人間的深みを感じさせる教官役を見事に演じていた。年を取るに従い渋みと重厚さをにじませる味のある俳優になってきた。一方の海東健はさっぱり印象が残っていない。藤竜也と比べると海東健は格段に見劣りすると言わざるを得ない。

  父親の写真の技術はよく分からないが、写真を撮る際の掛け声が驚くほど様になっている。自信に満ち、力強い声。つられて撮られる方もつい笑顔を見せてしまう。観ている観客もあれならいい写真が取れたに違いないという気になってしまう。そして父親は撮った後必ず「ありがとうございました」とお礼を言う。つまるところ写真は技術ではないと言っているのである。どううまく撮るかではなく、映される人たちの自然な姿をどう引き出すか、ここに、技術的には長けている若い息子には乗り越えられない父親との大きな隔たりがある。父親は何十年farmhouseも前の古いカメラを使っている。技術云々ではない(もちろん十分な技術を持っているに違いないが)。父親は最後の一枚は山の男たちを撮ると決めていたが、病に伏せ息子にその大役をになわせる。息子が撮った「最後の一枚」にはいらいらした気持ちが顔に表れた人たちが映っていたのだろう、自分の写真が父親の撮った他の写真に遠く及ばないことに息子は気付く。少なくともそれが分かる程度にまで彼は成長していた。同じ息子が撮った写真でも、魚を釣った子供たちは本当にうれしそうに映っていた。無理やり作らせた笑いではなく、自然に湧き出てきた笑みだったからだ。だから息子も写真に撮らせてほしいと思ったのだし、実際いい写真が撮れたのである。

  どうしても父親でなければ山の男たちの写真は撮れない。息子は病床の父に無理やり頼み込み、もう一度山に登る。足が弱っている父親は途中でうずくまり、息子が背負ってゆく。ここも明らかに「山の郵便配達」の有名な場面を意識している。そして父親が撮った村の「最後の写真」。被写体は同じなのに明らかに違った写真になっている。息子はこの父親の背中、いや、父親の掛け声とシャッターを押す指先、そして映される人たちとの呼吸の合わせ方から何かを学んだであろう。父親がカメラの横に立っただけで映される男たちの顔には自然に笑みが浮かんでくるのである。

  しかし藤竜也がこれほど好演しているにもかかわらず、全体としてみれば「村の写真集」は傑作とはいえない。「山の郵便配達」と比較すれば映画の出来は明らかに劣る。一番の欠点は脚本と演出の甘さだ。簡単に先が読めてしまう展開。何箇所かある山場もありきたりである。孝の姉が最後に帰ってくることも予想できてしまう。予定調和へと向かう予想通りの展開で、いい意味で裏切られることがない。孝の台湾人の恋人のエピソードにも必然性が感じられない。それにどうしても「山の郵便配達」の二番煎じという印象がぬぐい去れない。

  それでもこの作品には魅力があることを率直に認めたい。「ALWAYS三丁目の夕日」が都会のノスタルジーを誘う映画だとすれば、「村の写真集」は郷愁を誘う日本の風景へのノスタルジーを描いた作品である。もっとストーリー展開に工夫がほしいという思いは残るが、さわやかな余韻を残すいい映画である。

   僕はタイとかベトナムとか、日本以外のアジアの国を旅行するのが好きなんです。
 向こうの国って経済的には貧しいけど、その分、家族の絆がある。食卓には大勢の
 家族が集まり、みんなで一緒にご飯を食べている。今の東京ではまず見られないん
 じゃないかな。みんな携帯電話の液晶を見ることに必死になって、周りに目を向けて
 いない。携帯電話から得る情報も必要だけど、直に人間と話さなければ得られない
 情報もいっぱいある。僕は作品でそれを伝えていきたい。それは僕にとって変わら
 ないテーマだし、これからも描き続けていきたい部分ですね。

  三原光尋監督があるインタビューで語った言葉には共感を覚える。遠くない将来、きっと素晴らしい作品を生み出してくれるのではないか、そう期待させるものがある。

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コメント

 kimion20002000さん コメントありがとうございます。
 書いた後で読み直して、「山の郵便配達」の記憶がだいぶ薄れていることに気付きました。いろいろ比較して見たけれど、正確な比較だったか。思い込みで書いている気がして少し不安になりました。近いうちに見直してみたいと思っています。

TBありがとう。
いつもながら、丁寧な解説だと感心します。
「都会」からやってきた夫婦が陶芸かなんかして住み着いていて、藤竜也が、珍しく、子供とボール蹴りに興じていましたね。最後の姉の、取材にきた記者と都会に出て行ってしまった現実との、対称になっていたんだろうけど、自分も亡くなった奥さんと東京住まいをしており、奥さんの身体が弱いため、田舎に戻ったという、エピソードとか、もうちょっと、掘り下げられたでしょうね。
まあ、まだ若いし、三原監督の今後に期待しましょう。
TBもしておきますね。

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