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2006年1月22日 (日)

イギリス小説を読む② 『高慢と偏見』

テーマ:婿探し物語

【ジェイン・オースティン作品年表】
Jane Austen ジェイン・オースティン(1775-1817)  
 Sense and Sensibility(1811)          『いつか晴れた日に』(キネマ旬報社)  
 Pride and Prejudice(1813)        『高慢と偏見』(岩波文庫)
 Mansfield Park(1814)                  『マンスフィールド・パーク』(集英社)  
 Emma(1815)                          『エマ』(中公文庫)  
 Northanger Abbey(1818)            『ノーサンガー・アベイ』(キネマ旬報社)  
 Persuasion(1818)             『説きふせられて』(岩波文庫)

  オースティンに続くブロンテ姉妹、ジョージ・エリオットと、19世紀の女性の一流作家が皆牧師の娘であるのは偶然ではない。牧師は大学教育を終えた当時最高の知識階級であり、蔵書も豊富で、牧師館に出入りする大勢の人々が人間を観察する機会を与えた。
   青山吉信編『世界の女性史7 イギリスⅡ 英文学のヒロインたち』
   (評論社、1976年)

【主要登場人物】
■エリザベス・ベネットElegant6
  本作品のヒロイン。ベネット家の次女。両親のほかに、上に長女のジェイン、下に三女のメアリ、四女のキャサリン、末娘のリディアがいる。父親のミスター・ベネットはしっかりした人物ではあるが、家族の騒動をはたから見て面白がっている。ミセス・ベネットは娘たちを結婚させることしか頭にない、単純な人物。金持ちでいい男が現れるたびに大騒ぎする。

■ジェイン・ベネット
  エリザベスの姉。優しく人が良くて疑うことを知らない性格。いつも相手の立場に立ってものを考える。ビングリーと引かれ合うが、途中でダーシーに仲を引き裂かれる。ダーシーが誤解に気づき、再び交際を始め、めでたく結婚する。

■ミスタ・ダーシー
  本作品の主人公。登場人物の中で最も身分の高い人物だが、無口で高慢な男と思われエリザベスに毛嫌いされる。一度エリザベスに求婚するが、冷たく拒否される。しかし様々な誤解や偏見を乗り越え最後にはエリザベスと結婚する。年収約1万ポンドの大地主。

■チャールズ・ビングリー
  ベネット家の近所に引っ越して着た青年。ジェインと恋に落ちるが、ダーシーに仲を引き裂かれる。後にダーシーの誤解も解け、ジェインと結婚する。年収4~5千ポンド。

■ミスター・コリンズ
  エリザベスたちのいとこに当たる。ミセス・ベネットと並び、本作品中最も喜劇的な人物。大仰な言葉遣いでやたらと長々しい話をして周りの人を呆れさせる。

【作品とヒロインの特徴】
1 田舎の上層中流階級の社会を描いた小説

  『高慢と偏見』は地方のアパー・ミドル(上層中流)階級を中心に描いた写実的風俗小説である。そのまま第1級の社会史の資料として使えると言われるほどであり、当時の中上流の人々の暮らしがリアルに描かれている。例えば、上流階級の社交の様子が頻繁に出てくる。当時は上流の人たちが集まると、パーティーを開いておしゃべりに花を咲かせ、飲み食いしたあげくにトランプなどのゲームをするというのが普通だった。『高慢と偏見』の中にはまさにこのとおりの場面が何度も描かれる。話の内容もだれがだれと結婚するかといった他愛のないものである。会話に知的な要素が交じることは少ない。エリザベスはあまりに情けない会話の内容に呆れることがあるが、彼女自身もあまり本を読まない女性で、学問的な会話などしていない。

  登場人物の中心をなしているのは地方の上層中流階級から上流階級の人々である(ただし貴族は登場しない)。下層の人々(召し使い等を除いて)も登場しない。一部の登場人物を除いて、大部分は一体何をして暮らしているのかと思う人たちばかりである。労働の場面や職場に出掛ける場面は皆無に近い。何をして食べているのか分からない人物が出てきたら、その人はまず地主階級だと思ってよい。彼らは地代で暮らしている(数百から数千ヘクタールの土地を持ち、これを小作人や農業経営者に貸して年に数千ポンドもの地代を取る)ので働く必要がないわけである。したがって登場人物たちは狭い田舎の社会の中で遊び暮らしているだけである。何も仕事がない未婚の娘たちは隣人との付き合いに好きなように時間を使った。友達や親類同士で何週間も、時には1~2カ月以上も泊めたり泊まりに行ったりする。労働は描かれず性道徳の観念も一律に保守的である。このような世界をおもしろく描くことができたのは、オースティンの人間観察、人間鑑定の確かさと作品構成の緻密さ、そして女性にとっての本当の幸せとは何かを真剣に追求しようとする真剣な姿勢のお陰である。「愛のない結婚は決してすべきでない」と考えるオースティンは、ヒロインのエリザベスに相手が真に自分に値する男かどうかを真剣に吟味させてゆく。これを底で支えているのは、オースティンの実に正確な人物描写である。

2 主題は結婚
  オースティンの小説はいずれも恋愛と結婚を主題としている。その主題を通じて、人生における幸せとは何か、優れた人間性やマナーとは何かが追求され、また、当時に生きる人々の赤裸々な人間模様が描き出されている。タイトルの由来はエリザベスの偏見とダーシーの高慢さを指している。ともに様々な試練と経験をへて互いにその欠点に気づき、それを矯正してゆく。もちろんダーシーにも偏見はあり(特に身分の低い者に対する偏見)、エリザベスにも自分は他の人よりもよく物事が見えているという高慢な思い上がりがある。

engle1   登場人物の多くは当時の価値観を無意識のうちに受け身的に受け入れており、当然のように有利な結婚相手を捜すことに血道を上げる。したがってオースティンの小説には年収○○ポンドという表現がうんざりするほど頻出するのである。だがそのような恋愛騒動の背後には女性には自立(自活)の道がないという厳しい現実がある。遊び暮らす女性たちの背後には、オースティンがあえて描こうとしなかった下層の人々の悲惨な現実がある。このような現実とのかかわりを極力作品の外に追いやってしまったことはオースティンの作品に一定の限界を与えてはいるが、それはまた彼女の作品の魅力でもある。実際、この作品には深刻な場面はほとんど無く、むしろ基調になっているのは喜劇的色彩である。その喜劇的要素が読者をどんどん引き込んで行く原動力の一つになっている。その喜劇的側面の中心にいるのはミセス・ベネットやミスター・コリンズという単純で分かりやすい人物である。

  エリザベスは5人姉妹であり、姉妹それぞれを描き分けることによって当時の女性の様々な考え方を複線的に描くことができる。長女のジェインと次女のエリザベスは分別があるが、下の3人は未熟な女性(まだ子供だが)として描かれている。末娘のリディアにいたっては軍隊の将校にあこがれ、ついには美男だが浮気で金遣いの荒いこの将校と駆け落ちまでしてしまう。

  ただし、ベネット家の子供は娘ばかりだったので、限定相続によって財産は男系親族(作中では従兄弟のコリンズが相続者)に取られてしまうことになっている。もし娘が売れ残ったら、分けてもらった動産の利子や、身内の情けにすがって、周りから軽蔑されながら細々と食いつないでゆくしかない。いきおい女たちは豊かな生活と社会的尊敬を維持するために、結婚をするしかなかった。他に自活の方法はなかったのである。同じような状況はオースティンの『いつか晴れた日に』(原題は『分別と多感』)でも描かれている。ダッシュウッド夫人は子供がいずれも娘ばかりのため、亡くなった夫の財産はほとんどが先妻の息子と孫息子に行ってしまう。屋敷まで取られた形で、彼女と三人の娘ははるかに小さな別の家へ移り、生活費を切り詰めて暮らすことを余儀なくされるのである。

  ただ、当時のイギリスの結婚は恋愛結婚が原則だった。親が相手を選ぶドイツやフランスとは違って、ふつう娘には夫を選択する権利が認められていた。双方の財産が等しいのが適当な結婚の条件と考えられていたが、相手の家の資産の方が多ければ娘たちにとって幸いなのは言うまでもない。

3 エリザベスの性格と魅力
  エリザベスの性格を理解するには、次回取り上げるシャーロット・ブロンテの『ジェイン・エア』の同名のヒロインと比較するとより浮き彫りになるだろう。自己分析と自己批評を繰り返したジェイン・エアに対し、エリザベスは専ら周りの人たちを観察することに専念する。また、ジェイン・エアは必ずしも結婚を念頭に置いて行動していないが、エリザベスは結婚のことしか頭にない母親や姉妹の影響を受けて、かなり結婚のことを意識している。これはジェイン・エアが孤児として育ち散々苦労を重ねてきたのに対し、エリザベスの方は当面の生活に苦労しない(将来に不安はあるが)上流の恵まれた家庭に育ったという出発点の違いによる影響が大きい。一方、様々な経験を通して人間や世の中を見る目を豊かにし、理想の結婚相手を見いだすという点では、ジェインもエリザベスも共通している。

  エリザベスの魅力は身分が上の人たちにも物おじせず、卑屈にもならずに対等に渡り合うそのはつらつとした精神と行動力にある。5人の姉妹の中では長女のジェインと次女のエリザベスだけが分別のある人物として作者から肯定的に描かれているが、ジェインの方はしとやかな女性という類型的な描かれ方をしており、その点が型破りなところがあるエリザベスと比べると印象が薄い理由である。また、エリザベスは自分では公平で正確な判断力があると思っているが、実はダーシーの誠実さに気づかず、逆に人当たりはいいが一皮むくと浪費家で浮気もののウィカムにコロリとだまされたりと、案外誤った判断をしているところがある。完璧ではなく欠点もあり、しかも誤りに気づいたときは潔くそれを認める誠実さを持った女性として描かれていることも、彼女の人物造形に深みを与えている。

  次回はシャーロット・ブロンテの『ジェイン・エア』を取り上げます。

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