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« ビヨンドtheシー | トップページ | あの頃名画座があった(改訂版)⑦ »

2005年12月27日 (火)

酔画仙

2002年 韓国 Kingyo01
監督:イム・グォンテク
主演:チェ・ミンシク、ユ・ホジョン、アン・ソンギ、ソン・イェジン
    キム・ヨジン ハン・ミョング、チョン・テウ、チェ・ジョンソン

  「酔画仙」は実在した天才画家チャン・スンオプ(1843~1897)の生涯を描いた伝記映画である。監督は名作「風の丘を越えて~西便制」のイム・グォンテク。2002年の第55回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した。彼の作品を観るのは「シバジ」、「風の丘を越えて」に続いて3作目である。

  「酔画仙」はさすがの出来だ。岩波ホールで公開されたが、いかにも岩波ホール向きの作品である。「風の丘を越えて」では韓国伝統のパンソリを題材にしたが、こちらは水墨画の世界。墨といっても黒以外の色も用いるが、やはり黒墨を中心としてシンプルな線と構図と墨の濃淡で表現する画である。

  チャン・スンオプは「朝鮮時代三大画家」の一人とされる巨匠である。「酔画仙」はチャン・スンオプの幼少の頃から死ぬまでを描いている。彼は19世紀・朝鮮時代末期に貧しい家に生まれた。子どもの頃から既に天才的な絵の才能を発揮し、やがては宮廷画家にまでなる。しかし破天荒で束縛を嫌うスンオプは宮廷を抜け出し自由に生きる。絵の道も生き方に似て、型どおりの画法を嫌い独自の絵を追求する。彼の自由奔放な生き方と独自の絵の追求がこの映画の主題である。

 しかし、残された絵も彼に関する記録も極めて少なく、その生涯には謎が多い。「最後は仙人になった」と言われることから「酔画仙」と呼ばれるようになったようだ。したがって、映画「酔画仙」の大部分は残されたわずかな絵や資料を基に創作され脚色されたものである(ショッキングなラストも当然創作である)。恐らくそのためだろう、「アビエイター」や「ビヨンドtheシー」のように、無理やり一人の人物の一生を2時間の映画の中に詰め込もうとして消化不良になってしまったという印象はあまりない。無理なく彼の創作や創作上の苦悩と破天荒な生き方に焦点を当てられたのである。

  また、恐らく彼の自由奔放な生き方ゆえであろう、イム・グォンテクの作品としては重苦しさがあまりない。基本的には娯楽映画ではなく芸術的な映画だが、適度に娯楽性も盛り込んでいる。スンオプに与えられる絵の助言も分かりやすく難解ではない。

  見所は何といってもその創作過程。何もない紙にいきなり筆を入れると、たちまちそこに見事な絵が出来上がってゆく。驚異の世界だ。映画では一気に描き上げてゆく様子が描かれているが、実際は筆を入れるまでにかなりの時間をかけるのだろう。下書きもなく何もない白紙に一気に描き入れるのだから、当然それまでに頭の中で絵の姿が出来ていなければならない。「気」が高まるのを待って、エイとばかりに筆を走らせる。絵の具で描く絵のように全体を塗りつぶすわけではない。基本的に線画である。したがってビアズリーの挿絵のように白と黒のコントラストによる構成の妙が命である。もっともビアズリーの場合「ライン・ブロック」と呼ばれる印刷法の制限で白と黒の対比だけで、微妙な中間色や濃淡を表すことは出来ないのだが、水墨画は筆だから線の太さや濃淡がまた味わいを生む。しかし、白地の部分を活かして余計な部分をいっさい切り捨てて、わずかな的確な線だけを生かすという表現法には共通するものがあるだろう。クリムトの絵のような極彩色で装飾過多の世界とは対極にある(クリムトの絵が悪いと言っているわけではない、あれはあれで好きだ)。

  彼の絵がどれほど、またどのように革新的であるかは、それ以前の画法とじっくり比べてみないとよく分からない。映画だけでは無理だ。ただ彼が画家として成長してゆく過程はそれなりによく描かれていたと思う。その折々に語られる助言、例えば、ただ対象をそのまま描くだけではなくそこに描く者の心を付け加えなければならない等の助言も難解ではなく、何とか素人にもついてゆける。伝統にこだわらない彼の自由な画風が、彼の自由奔放な生き方と裏表の関係にある事が強調されている。偏屈なほど束縛を嫌い、逃亡と放浪を繰り返す。何しろ「宮廷画家に任命されてから宮廷を3回も逃げだした」、「酒と女なしでは絵が描けなかった放蕩者」などの記録が残っているそうである。どう考えても窮屈な世界におとなしくこもっている類の男ではない。

  スンオプが師と慕い、またスンオプを一番理解し的確な助言を与えたのはキム・ビョンムン(アン・ソンギ)である。スンオプ役のチェ・ミンシク同様、名優アン・ソンギはまさに適役である。岩の様な落ち着きと深い知識を持ち、温かくスンオプを見守る慈父の様な存在。やがて政変によって官憲に追われ隠れ住むことにもなるが、そんな境遇でも落ち着きと気品を失simp-daimaru01わない。難しい役だがアン・ソンギは見事にそれに応えた。彼は貴族ながら改革派の進歩的知識人で、水墨画にも深い知識を有している。貧民街で育った下賎な身分のスンオプを見出したのも、彼を絵の師匠に弟子入りさせたのもキム・ビョンムンである。そして何よりもスンオプの絵の最も優れた理解者であり助言者であった。彼の類まれな絵の才能を見抜き(スンオプの観察力と記憶力は驚くべきもので、若い頃古い画帳を夜中に一度こっそり盗み見ただけで本物そっくりに再現してしまった)、さらに中国画の真似ではなく朝鮮画の真髄を見つけるよう助言する。彼にはその期待に応えられるだけの才能があると見抜いていたからだ。そしてスンオプもそれに応えようと苦悩する。彼が一番酒におぼれたのはその時だ。彼ほどの才能をもってしても新しい画法を生み出すのは容易ではない。悩むほどに酒を飲み、飲むほどに苦悩は増す。もっとも、酒を飲まなければ絵が描けないというのは、伝説の類だろう。かつて麻薬をやるといい演奏が出来るとされたジャズ・ミュージシャンと同じで、何の根拠もない。酒も麻薬も逃避に過ぎない。有名人ほど逸話も多く、話には尾ひれがつくものである。実際に酒はかなり飲んだのだろうが、それと創作とは何の関係もない。一度見ただけで絵を再現したという話もその類で、どこまで信じられるか分かったものではない。ただこれは基本的にフィクションなので、それはそれとしてとりあえず受け入れておけばいい。

  改革派のキム・ビョンムンは日本と組んで体制の転覆を図ったが、三日天下で終わり、やがて追われる身となる。スンオプも巻き込まれそうになる。清国と日本の間で翻弄されてきた朝鮮の歴史が絡められているが、これはそれほど深く描かれてはいない。背景程度だ。スンオプは一人放浪し自己を見つめ直し、自分の絵を追求する。

  彼が放浪する土地の風景が素晴らしい。色彩に乏しく、まさに水墨画のような寒々とした景色も出てくる。霧にかすむ山、荒涼とした草原、これらの映像が彼の描く水墨画の世界に見事にマッチしている。一方、彼の家の庭など、人家があるところでは花の色など色彩があふれている。それが赤や黄色などの色をワンポイントのように使う彼の絵の世界にまた合う。彼が絵の発想をどこから生み出すのかほとんど描かれていない(また描きようがない)が、水墨画の様な自然の中を歩く彼を描くことによって、彼は自然から絵の発想を得ていると暗示しているようだ。これはなかなか見事な演出である。彼はあくまで自然を描く画家であり、彼は創作上の壁にぶつかると自然の中に入り、自然を見つめ彼自身の心を見つめる。彼の絵の源泉は酒や女ではなく自然なのである。

  キム・ビョンムンの助言とスンオプの出自が最後に結びつく場面がある。スンオプは貧しい生まれであるため画の才能を認められつつも、周りの画家仲間たちから馬鹿にされていた。身なりにしても彼だけがみすぼらしいなりをしていた。彼が庶民の集まる安酒場に行き昔のなじみと話をする場面が何度か出てくる。そこは彼にとって落ち着ける場所なのであろう。そんな彼にキム・ビョンムンがもっと庶民的な絵を描くべきだとある時助言する。スンオプはそれに応えて一枚の絵を彼に献上する。ラスト近く、スンオプは官憲に追われるキム・ビョンムンが隠れ住んでいる庵に行くが、キム・ビョンムンはいない。だが彼に渡した絵が置かれていた。スンオプは、以前キム・ビョンムンに頼まれたとおりに、絵の中の家に黄色の彩色を施す。ただ一人信頼していた師に対する彼の限りない思慕の情が表れていて素晴らしい場面である。

  しかし、優れた映画なのだがなぜか感動は薄い。「風の丘を越えて」とは違って、魂の奥底をゆさぶられるような感動はない。彼や彼の絵があまりに常人の理解を超越しているからか。いや、そうではないだろう。才能は別にして、彼も酒と女におぼれ、悩み苦しむ普通の人間である。優れた画家として認められた後も、どこか庶民的なところが残っている。恐らくイム・グォンテク監督の演出が感情移入をあえて阻んでいるのである。劇的な演出や安易な涙を誘う演出は避けている。そして何よりも、彼の演出がスンオプの内面に過度に入り込まず、終始客観的冷静に描いているからだろう。このことが作品の出来を高めたのか低めたのか、にわかには判断しがたい。

  最後に女優について一言。スンオプが最初に憧れるソウン役でソン・イェジンが出ている。しかしこれが彼女の最初の映画出演作で、その美しさは印象的だが出番は多くない。むしろ彼を慕い続けた妓生メヒャンを演じたユ・ホジョンとスンオプの妻(愛人?)役のキム・ヨジンの方がずっと重要な役である。特にユ・ホジョンの美しさと存在感は特筆に価する。

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