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2005年12月30日 (金)

ライフ・アクアティック

2005年 アメリカ cut
原題:THE LIFE AQUATIC WITH STEVE ZISSOU
アニメーション:ヘンリー・セリック
脚本:ウェス・アンダーソン、ノア・ボーンバック
監督:ウェス・アンダーソン
音楽:マーク・マザースボウ
撮影:ロバート・D・イェーマン
出演:ビル・マーレイ、オーウェン・ウィルソン、ケイト・ブランシェット
   アンジェリカ・ヒューストン、ウィレム・デフォー、ジェフ・ゴールドブラム
   マイケル・ガンボン、バッド・コート、ノア・テイラー、シーモア・カッセル
   セウ・ジョルジ、ロビン・コーエン

 「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」のウェス・アンダーソン監督作品。正直言って彼がこういう映画を作る人だとは知らなかった。「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」は軽いコメディだったという以上の記憶はない。どうやら「天才マックスの世界」という映画がオタク心をくすぐる映画だったようだ。

  なるほど確かに「ライフ・アクアティック」はオタクの世界だ。まず手作りクリーチャーがいかにもそれらしい作りである。“クレヨンタツノオトシゴ”やら“キャンディガニ”やら“ベトコンクラゲ”などといった珍妙なものが登場する。当然わざとらしく作ってある。そして極めつけは“ジャガーザメ”。「ナイトメアー・ビフォー・クリスマス」のヘンリー・セリックがアニメーション・ディレクターとして参加しているので作りは確かだ。といっても当方マニアックな世界からはあまりに遠い世界に生きているので、ヘンリー・セリックという名前はこのレビューを書くためにあれこれ検索していて初めて知った。こちとら映画全体に関心が向くのでアニメーターなどには全く関心がない。いずれにしても、細部へのこだわりは相当なものである(だからオタクなのだが)。水中の生物などはパペットを用い、水中で動かしつつ高速撮影した上でスロー再生したものらしい。そうそう、海賊が飼っていた3本足の犬や体にカメラをくくりつけたイルカの撮影隊なんてのも出てきたなあ。

  登場人物も凝りに凝っている。主人公のスティーヴ・ズィスー(ビル・マーレイ)、その妻(アンジェリカ・ヒューストン)、ズィスーの前に「たぶん、あなたの息子です」と言って現れたネッド(オーウェン・ウィルソン)、雑誌記者のジェーン(ケイト・ブランシェット)、出資者から送り込まれた監視員(バッド・コート)、成金で出資者の男(ジェフ・ゴールドブラム)、さらにチーム・ズィスーの一員としてウィレム・デフォーとセウ・ジョルジも出演している。いずれも周到にユニークな性格付けがなされている。チーム・ズィスーが乗り込む船はベラフォンテ号と名づけられている。チーム・ズィスーのメンバーは揃いのユニフォームと赤いニット帽を身につけている。胸にはチーム・ズィスーの頭文字をかたどったシンプルな “Z”のロゴが入っている。パジャマまで全員同じという徹底ぶり!チーム・ズィスー自体が一種の疑似家族なので必要なアイテムなわけだ。細部にわたる過度なまでの作り込み、それはもうあきれるほどだ。

  キャラクターの性格が全員ゆるゆるの設定。ビル・マーレイの飄々としたキャラクターは映画全体のゆるい性格を決定付けている。いい加減そうでいてどこか憎めないキャラクター。ジェフ・ゴールドブラムは完全に喜劇的キャラクター。全くの成金ぶりで笑わせる。びっくりしたのはウィレム・デフォーだ。「プラトーン」で演じた狂気じみた百戦錬磨の兵士ぶりがいまだに目に焼きついているので、こんなコミカルなおとぼけ役が似合うとは正直驚きだ。ケイト・ブランシェットは日焼けしたような黒い顔で、全く美人ではない役柄。でもこの曲者ぞろいの中ではちょっと浮いていたかな。セウ・ジョルジはいつも船べりでギターを持って歌っているのだが(おかげで海賊の襲撃に気付かなかった)、歌っているのがデビッド・ボウイの曲。だそうだ。

dolphin-wave1   面白いのはベラフォンテ号をそのまま縦に断面で切り取った大きなセットをつくり、船室から船室へとカメラが移動して内部の構造を見せる場面だ。外面は古びているが内部はサウナとかジャグジーまである豪勢なつくり。とにかくセットとか小物も含め、ビジュアル的にこれでもかとばかり、それこそ偏執的ともいえるくらいこだわっている。まさにオタクの誉れ。全体のストーリーなんかどうでもいい。細部にこそ神は宿るというわけだ。作る側も観る側もオタクという性格の映画だから、凝ること凝ること。おかげでオタクでもマニアックでもない僕でも結構楽しめる。

  主人公スティーヴ・ズィスーはジャック=イヴ・クストーを思わせる海洋学者兼映画監督という設定。だがこのところ興行成績は下がりっぱなしの落ち目の監督だ。撮影のための資金繰りもままならない。前作で旧友かつ片腕のエステバンを“ジャガーザメ”に喰い殺され、その敵討ちを映画にしようとチーム・ズィスーを率い新たな航海へと旅立つ。そういう話。クストーとはこれまた懐かしい。「沈黙の世界」か「太陽のとどかぬ世界」を学生の頃に観たはずだ。当時は「世界残酷物語」のグァルティエロ・ヤコペッティと何となく混同していた覚えがある。記録映画作家がまだ珍しかったからだろう。それはともかく、クストーのせいなのか、アメリカ映画なのにどこかフランス映画のテイストがある。

  ズィスー率いる個性豊かな愛すべき仲間たちが繰り広げる冒険物語なのだが、そこに「宇宙戦争」同様サブストーリーとして家族関係が織り込まれている。ズィスーのダメ親父ぶりと「父と息子」の確執を中心にして(妻との確執もある)、その周りに擬似家族としてのチーム・ズィスーを絡ませるという二重構造だ。家族のぬくもりや助け合って仲良く暮らす様子がほほえましいのだが、とにかく話がもたつきすぎる。ドタバタ劇というよりダラダラとだるい展開で、時々脱力系の笑いをかます。もちろんこのチープでレトロな感覚はわざとだしている。このすっとぼけた感じにはまる人ははまるのだろうが、僕には今ひとつだった。

  何せストーリーがゆるゆるでどうしようもない。一応骨格となる枠組みがないと長編にはならないからとりあえずストーリ-を取ってつけてみましたという感じ。全体の構成やストーリーや完成度などはもはやどうでもよく、細部にこだわり「そうそうあれいいよねー」などと仲間と言い合いながら観るような映画だ。このままでは文字通りのマニア向け映画だ。どうせ作るんなら「ナイトメアー・ビフォー・クリスマス」やニック・パークの「ウォーレスとグルミット」シリーズ並の傑作を作れといいたい。せっかくこれだけユニークで面白い登場人物やクリーチャーを作り上げながら、枠組みとなるストーリーがゆるゆるなため長編映画としてはB級どまりになってしまっている。だったらむしろ、いっそ50分くらいの中篇に再編集して、すっきりさせるのが正解かも。

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