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2005年12月20日 (火)

風の遺産

1960年 アメリカ(劇場未公開・TV放映) SD-fai2-09
原題:INHERIT THE WIND
監督:スタンリー・クレイマー
製作 : スタンリー・クレイマー
脚本 : ネイサン・E・ダグラス、ハロルド・ジョイコブ・スミス
撮影 : アーネスト・ラズロ
音楽 : アーネスト・ゴールド
出演:スペンサー・トレイシー、フレデリック・マーチ
 ジーン・ケリー、 フローレンス・エルドリッジ、ディック・ヨーク
 ヘンリー・モーガン、 ドナ・アンダーソン、エリオット・リード
 クロード・エイキンズ

  アメリカ1920年代。ジャズ・エイジとも言われ、アメリカ人がやがて来る大恐慌の前の空前の繁栄を享受していた時代。自動車、飛行機、ラジオが市民生活をより快適なものに変えていった。そして摩天楼が出現した時代。誰もが科学の進歩の恩恵を享受していた時代。その時代にとんでもない裁判が起こった。スコープス裁判。一般には「サル裁判」として知られる、アメリカの歴史上有名な裁判である。

  1925年の蒸し暑い夏。アメリカ・テネシー州デイトンで世紀の事件は起こった。当時高校の数学教師であった(スポーツ・コーチで理科の代用教員でもあった)ジョン・スコープスが授業中にダーウィンの「進化論」を生徒に教えたことを理由に逮捕されたのである。日本では信じられないことだが、今でもアメリカではキリスト教原理主義者による進化論攻撃は続いている。80年代に保守派のレーガン大統領が誕生した時、保守派の巻き返しが激しくなった。その巻き返しの中心にいたのは「モラル・マジョリティ」などのキリスト教右派団体である。堕胎反対運動など当時話題になったのでニュース等で見た人も多いだろう。この時も反進化論キャンペーンがあり、各地で裁判になった。

  スコープス裁判についてJ.W.T.ヤングス著『アメリカン・リアリティーズ』(1985年、多賀出版)の第7章「現代と伝統――スコープス裁判と社会正義」を借りて説明しておこう。ファンダメンタリスト(原理主義者)の運動はK・K・Kほど人種差別主義的ではなかったが、その目標には共通のものも少なくなかった。両者共に聖書、農村的生活などを強調し、変化を恐れた。彼らは聖書の真実――天地創造、処女降臨、復活――を本質的真実だと考える。したがって人間は猿から進化したとする進化論の考え方は神への冒涜であり、彼らにとって主要な敵とみなされた。ファンダメンタリストは1920年代にキリスト教の少なからぬ宗派で多数派になり、中南部の各州で進化論を公立学校で教えることを禁じる法律を成立させた。テネシー州では1925年にジョン・バトラーという農民議員がこの法案を提出し、通過した。アメリカ市民自由連盟(ACLU)はこの法律に対して法廷で争う方針を立て、スコープスを拝み倒し協力を約束させた。数日後、スコープスはバトラー法違反で逮捕された。

  裁判では弁護側はクラレンス・ダーロウを弁護士にたて、検察側はウィリアム・ジェニングス・ブライアンを検事に選んだ。二人とも当時有名な人物だった。検事側の主張は単純、テネシー州で禁じられている進化論を教えたかどうかを論点にした。弁護側はその法律そのものが憲法修正第1条と第14条を犯している、広く受け入れられている科学理論を教えることを禁じるのは不当であると主張した。だが本質は、進化論とファンダメンタリズム、思想の自由と「根を下ろした価値観」の対立だった。結局、スコープスは、ダーロウの見事な弁護にもかかわらず、1927年7月21日に有罪判決を言い渡され100ドルの罰金を課された。裁判が終わった数日後、検事のブライアンは突然死去した。弁護側はその後も運動を続け、1967年バトラー法は廃止された。

  「風の遺産」はこの有名なスコープス裁判を描いた骨太な法廷劇である。このような映画がある事自体つい一月ほど前まで知らなかった。それが突然DVDで発売されたのである。最近のDVD化の動きは相当なものである。まだDVD化されていない作品も結構あるが、この動きが今後も続くなら、かなり貴重なものも入手できるようになるだろう。歓迎すべきことである。

  「風の遺産」は日本では劇場未公開。ただし「聖書への反逆」というタイトルでテレビ放映されたことがあるようだ。タイトルは旧約聖書の「箴言」にある「自分の家族を煩わせる者は風を相続し、愚かな者は心に知恵のある者の僕となる」から取られている。監督は「招かれざる客」、「手錠のままの脱獄」、「ニュールンベルグ裁判」などで知られるスタンリー・クレイマー。弁護士にスペンサー・トレイシー、検事にフレデリック・マーチという共にオスカーを2度ずつ受賞した名優を配し、さらに弁護側支持の新聞記者にジーン・ケリーを起用している。

  日本語のサイトには全く情報がないので、英語のサイトから基本的な情報を引き出してみた。Tim Dirks氏の「風の遺産」レビューが非常に参考になる。 映画ではテネシー州デイトンはテネシー州ヒルズボロに変えられ、ダーロウ弁護士はヘンリー・ドラモンドに、ブライアン検事はマシュー・ブレイディに、被告スコープスはケイツ(ディック・ヨーク)に変えられている。ジーン・ケリーが扮した「ボルティモア・ヘラルド」紙のE.K.ホーンベックのモデルは「ボルティモア・イブニング・サンズ」紙の記者H.L.メンケンである。他に判事役をヘンリー・モーガン、ジェレマイア・ブラウン牧師をクロード・エイキンズ、その娘レイチェル・ブラウンをドナ・アンダーソンが演じている。

  元はブロードウェイのジェローム・ローレンスとロバート・E・リー作の舞台劇である。初演は1955年の4月で、ドラモンド弁護士をポール・ムニ、ブレイディ検事をエド・ベグリー、ホーンベック記者をトニー・ランドールが演じている。映画の脚本はネイサン・E・ダグラス、ハロルド・ジョイコブ・スミスとなっているが、ネイサン・E・ダグラスの本名はネドリック・ヤングである。赤狩りでブラックリストに挙げられたが、屈しなかった人物である。ここでは変名で脚本を書いたのである。このネドリック・ヤングの存在は重要である。リベラル派スタンリー・クレイマーは1925年の裁判を題材に取りつつ、人間の良心と信念をめぐる激しい裁判での論争を通して、赤狩り旋風が吹き荒れた50年代の抑圧的雰囲気をも描いていたのである。

  アカデミー賞に4部門でノミネートされたが、いずれも受賞は逸した。この映画は3度テレビドラマ化されている。このテーマがいかに重要、かつ現代的なテーマであるかがこのことxmastreeからもうかがえる。65年版はメルヴィン・ダグラスとエド・ベグリー主演、88年版はジェイソン・ロバーズとカーク・ダグラスとダレン・マクガヴィン主演、99年版はジャック・レモンとジョージ・C・スコットとボウ・ブリッジス主演。そうそうたる名優ぞろいである。

  さて、基本情報はこれくらいにしてそろそろ映画そのものを紹介しよう。「風の遺産」はいわゆる法廷劇のジャンルに入る作品である。息詰まる論戦、予想外の展開と意外な真相など、劇的な展開が作れるので古来名作が多いジャンルである。スタンリー・クレイマー自身の「ニュールンベルグ裁判」、ビリー・ワイルダーの「情婦」、シドニー・ルメットの「十二人の怒れる男」、カール・ドライエルの「裁かるゝジャンヌ」、エドワード・ドミトリクの「ケイン号の叛乱」、オットー・プレミンジャーの「軍法会議」と「或る殺人」、ゴットフリード・ラインハルトの「非情の町」、ロバート・マリガンの「アラバマ物語」、ノーマン・ジュイソンの「ジャスティス」(79年、アル・パチーノ主演)、まだまだある。ただ、残念なことに、最近のものでこのクラスに並ぶものはほとんどない。民主主義が強く、広く信じられていた時代の産物なのである。

  映画は町の有力者4人がいきなり教室に現れ、ケイツが進化論の説明を始めたとたん逮捕される場面から始まる。元が舞台劇だったこともあるだろうが、ほとんどが法廷場面である。ときどき街の人々が人形に火をつけ、「ケイツを木に吊るそう」と歌いながら(「リパブリック賛歌」の歌詞をもじったもの)行進する姿などが映し出されるだけである。このあたりの抑圧的雰囲気はK・K・Kを連想させる。あのぞっとするとんがり帽と白い衣装を着ていないだけだ。

  ドラモンド弁護士が町にやってくる。彼を迎えるのはホーンベック記者ただ一人。ホーンベックはこう呼びかける。「悪魔さん、ようこそ地獄へ」("Hello, Devil. Welcome to Hell.")うまい台詞だ。続けて、「ここがヒルズボロ、原理主義者の牙城だよ。」

  いよいよ裁判。ここからは激しい言葉の応酬。頑固そうなフレデリック・マーチと飄々としたスペンサー・トレイシー、それぞれの持ち味を出し切って丁々発止とやりあう。陪審員の選任から始まり、証人の証言へ。基本的な争点は上に挙げた実際の裁判と同じである。観察側が「いやしい動物が祖先だと学校で教えられたのです。進化論者は子供の心を毒している」と攻め立てる。弁護側は進化論を説明するために科学者たちを証人に呼ぼうとするが、検察側に拒否される。それは論点ではないと。さらにはドラモンド弁護士が法廷侮辱罪で拘束されそうになる。傍聴人の中から保釈金を払おうというものが現れ、何とか拘束は逃れる。

  追い詰められた弁護側はとんでもない証人を呼び出す。聖書の専門家としてブレイディ検事本人を証人に指名する。ブレイディは受けて立つ。聖書に書いてあることはすべて真実だと断言するブレイディに、弁護士はヨナがクジラに飲み込まれたという話はありうると思うか、ヨシュアが一日を長くするために太陽を止まらせた話を信じるのかと問い詰める。さらにカインの妻はどこから来たのか(セックスをしなければ人は増えない)、天地創造の6日間は24時間刻みの時間だったのか、太陽もないのにどうやって時間を計ったのかなどとたたみかける(これらの質問は実際の裁判でも使われた)。ブレイディは「聖書の述べることだけを信じる」としか答えられない。

  いよいよ判決の日、ドラモンドはさらに熱弁を振るう。「知識の進歩は海の水を二つに割る以上に奇跡だ。ダーウィンは私たちに生物の歴史を見せてくれた。その代償として聖書という御伽噺を捨てねばならない。・・・神はなぜ人間に考える力を与えられた?どんな動物よりも優れた能力だ。人間の唯一の武器といってもよい。」

  陪審員の判決が出た。有罪。裁判長は有罪を言い渡し、さらに100ドルの罰金を課す。裁判は終わったが、ブレイディ検事は用意してきた原稿を読みたいという。しかし裁判長は閉廷を命ずる。収まらないブレイディはざわついた中一人で大演説をぶつ。誰も聞いてはいない。実は証人として弁護士の質問を受けた時に、興奮して自分をまるで預言者のように言い出し始め、熱心な支持者からも顔をしかめられる失態を演じていたのである。彼の名声は地に落ちていた。演説のさなか彼は倒れ、事切れる。

  ラストシーンも印象的だ。ドラモンドは荷物を片付けている。ふと2冊の本を手にする。片手にダーウィンの『種の起源』、もう一方の手に聖書。重さを比べるような身振りをし、それから肩をすぼめて2冊を重ねて鞄に放り込む。ジ・エンドの文字は入らない。問題はまだ解決していないのである。

  この映画から8年後の1968年、「猿の惑星」が作られた。猿が人間を支配しているという全く逆転した発想の映画である。「風の遺産」と並べてみると、この映画に込められた風刺がなお一層よく読み取れる。脚本を書いた一人はやはり赤狩りでハリウッドを追われたマイケル・ウィルソンである。「陽のあたる場所」、「地の塩」、「友情ある説得」、「戦場にかける橋」、「アラビアのロレンス」、「いそしぎ」、「ゲバラ!」の脚本家だ。「友情ある説得」とデヴィッド・リーンの2作では、名誉回復後に彼の名前がクレジット(表示)された。

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