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2005年12月11日 (日)

マゴニア

2001年 オランダ G20_1
監督:イネケ・スミツ
プロデューサー:ヴァレリー・スハイト
原作・脚本:アルチュール・ジャピン「Magonian Stories」
撮影:ピヨッター・クックラ
美術:ビリー・レリフェルト、グーガ・コテタシビリ
音楽:ジオ・ツィンツァーゼ
出演:ウィレム・フォーフト、ディルク・ローフトホーフト
    ノダル・ムガロブリシビリ、 ラムゼイ・ナスル
    ナト・ムルバニゼ、リンダ・ファン・ダイク

  オランダ映画はまだまだ珍しい存在だ。人口が少ないので自国の市場だけでは制作費が回収できないため、共同出資というかたちをとることが多い。「さまよえる人々」「遥かなるクルディスタン」「家族のかたち」「ポーリーヌ」などがそうだ。それでも去年オランダだけで製作した「クリビアにおまかせ!」と「オランダの光」が日本で公開されている(気になりつつもまだ観ていない)。オランダ映画は徐々に力をつけてきているようだ。「ロゼッタ」、「ポーリーヌ」「雲 息子への手紙」などのベルギー映画、「バベットの晩餐会」、「奇跡の海」、「ペレ」、「マイ・リトル・ガーデン」、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」、「幸せになるためのイタリア語講座」などのデンマーク映画と共に今後さらに伸びてくるものと期待している。

  「マゴニア」は2005年3月にユーロスペースで上映された作品。いかにもユーロスペースにふさわしい、独特の味わいを持った映画である。「師の歌を奪った青年」、「砂漠の孤島に訪れた夫婦」、「恋人の迎えを待つ女」という3つの挿話からなる一種のオムニバス映画で、全体をつなぐのは空に浮かぶ架空の国「マゴニア」である。解説によれば、「マゴニア」とは古くからヨーロッパに伝わる想像上の世界で、不運が空から降ってくる前に一時的に留まる場所。天空に浮かぶ船の形をした救いの地である。本作でも大きな帆船の形をした凧を揚げる象徴的な場面が出てくる。

  ジャンルとしてはファンタジーに入る映画である。しかしファンタジーといっても、宮崎駿の様なヒロインが大活躍する活劇ではなく、アメリカ製アニメの様なはちゃめちゃな楽しさとも違う。かといってファンタジー王国イギリスの様に皮肉や風刺が込められているわけでもないし、妖精が出てくるわけでもない。そこはやはり北欧に近い国の映画。むしろ「さまよえる人々」のような隠喩や寓意に富み、きわめて瞑想的である。

  しかも「マゴニア」という架空の国を題材にしながら国際色が豊かである。「師の歌を奪った青年」はイスラム色が濃い。女性が顔を覆っていないのでトルコ辺りをイメージしているのではないか。残念ながら何語を使っているのか分からないので判然とはしない。いずれにせよトルコ映画かイラン映画を観ている感覚である(しかも、なんとロケ地はグルジアである!)。「砂漠の孤島に訪れた夫婦」のエピソードは砂漠の中の一軒家が舞台。家に住んでいるのは黒人で、そこに車がエンストして助けを求めに来るのはギリシャ人夫婦という設定。どことなくジャームッシュの映画やヴェンダースの「パリ・テキサス」を連想させる。「恋人の迎えを待つ女」はある港町の酒場が舞台。一人の女が昔愛してくれた男が戻ってくるのを待っている。青い目で、両腕に東と西の刺青をした船乗り。やがて実際にその男が戻ってくる。男は「マゴニア」からやってきたと話す。こちらはまるでアメリカ映画の様な展開だ。いずれも何語を話しているのか気になるのだが、悲しいかな、さっぱり分からない。英独仏西語なら意味は分からなくても何語か区別が付くが、ここで使われている言語はまるで見当がつかない。せいぜいギリシャ人夫婦が話しているのはギリシャ語だろうと推測できる程度。ただ架空の国という設定なのでいろんな言語を合成している感じもある。ものすごくなまった英語を話しているように聞こえる部分もある。幾つかのサイトをあたってみたが、言語について言及しているものはない。

 それはともかく、この映画はある意味で「さまよえる人々」と姉妹関係の様な位置づけにある映画だと思う。「さまよえる人々」はいうまでもなく「さまよえるオランダ人」(Flying Dutchman)からの連想に基づいている。主人公のダッチマンは父親を探す旅に出る。父親は船長で、空を飛ぶことができ、七つの海を支配していると彼は信じている。文字通りの空飛ぶオランダ人。空を飛ぶ船。そこに「マゴニア」との接点がある。息子に物語を聞かせる「マゴニア」の父親は、初老に達した晩年のダッチマン (ラストで彼も空を飛んだことが暗示される)であると捉えることも出来る。とそこまで言うのはいいすぎだが、テーマ以外にも隠喩や寓意に富んだ作風は共通するものがある。

 それにしても不思議な感覚の映画だ。何度も出てくる凧のイメージ。その凧を結ぶロープの様々な結び方と"オランダ結び"や"恋結び"といったそのユニークな名前。空を舞う白い紙飛行機。帆船の形をした巨大な凧。印象的な物や場面があちこちにちりばめられている。

  一人の少年が毎週日曜に船で美しい島を訪れ、父に会いに来る。父は息子と凧を揚ship002_sげ、その合間に「マゴニア」の物語を語って聞かせる。父親が息子に語る物語は「毎回違う物語だが、メッセージは同じ。一本のロープでも結び目は無限だ。」息子が父親に問う。「父さん、希望が消えるとどうなる?」そこから一つめの挿話「師の歌を奪った青年」の物語が始まる。

 「リヨンの近くで農民たちが空の間に浮かぶ巨大な帆船を見た。その船は旗をなびかせ、古い橋の欄干に碇を引っ掛けた。やがて男3人と女1人が鎖をつたい果物と水の調達に来た。だが人間の重苦しさで彼らはあえぎ始めた。船に戻してやらないと溺れてしまう。自由にしてやらねばならない。そして9ノットの早さで3人の男と1人の女は去った。驚くべき体験をした場所から。」  

  「人間の重苦しさ」という言葉に注目しなければならない。自由のない人間の世界ではマゴリア人は「溺れてしまう」。自由と希望、これがキーワードである。「師の歌を奪った青年」の物語では声が出なくなった師の代わりに弟子の青年が歌う。見事な声と歌に市民は聞きほれるが、師の「歌を奪った」青年は師と師に仕える女性(青年は彼女に思いを寄せている)の信頼を失い、寂しく街を去ってゆく。2つめの話に出てくる老人は「希望は最後に消える物」とつぶやく。3つめの話の「待つ女」は決して男が帰ってくるという希望を捨てない。彼女は窓から空を眺める。「何を見てる?」「雲よ。雲が好きなの。流れていくわ、空高く、輝きながら。」雲が何を象徴しているかは明らかだ。

 人々は自由のない「重苦しい」世界に生きている。しかし希望がなければ人は「溺れてしまう。」この映画は希望なき世界を描いた絶望的映画ではない。人々は挫折を繰り返しながらなお希望を捨てない生き方を見出そうとしている。

 しかしそう単純でもない。一見美しいファンタジーのようであるが、「さまよえる人々」同様、シュールでグロテスクで非常に難解でもある。容易に解釈を許さない。美しいが残酷でもあり、リアルだがシュールでもあり、切ないが冷めてもいる。「大人のファンタジー」とよく評されるが、「大人」とはそういう意味だ。ただただ美しく感動する映画ではない。少年は最後に父親がいつも戻ってゆく建物の「正体」を見てしまう。想像力とは狂気なのか?この映画では語る行為自体もテーマになっているが、語るとは「騙る」なのか?はっきりとは分からない。様々な象徴的な物や出来事はただ意味ありげに示されるだけだ。ロープの結び方(の組み合わせ)が無限にあるように、解釈も無限にありうるということなのか?結び目が交錯するように意味も交錯して多重になってゆく。3つの物語にどんな共通性があるのか。どんなズレがあるのか。あの紙飛行機は何を象徴しているのか。すべては曖昧である。この曖昧さを深遠さだと安易に考えてはいけない。こういう意図的な韜晦に対しては常に留保が必要である。曖昧さは底の浅さを隠すイチジクの葉であるかもしれない。ドストエフスキーの小説は文字通り深遠であるが実に明快でリアルである。意図的な曖昧さなどない。しばしば難解になることはあっても曖昧ではない。

 終わり近くで少年は父親にいつもそばにいてほしいと頼む。父はこの島から出られないと答える。「おまえが行き着くところへ行くまでは。」「どこへ?」と聞くと「遠くへ」と答える。「行き着くって?」と聞くと「理解すること」と答える。「僕に行ける?」「遠ければ遠いほどいい。」  問題は「理解すること」が果たして可能な目標とされているのかということである。もちろん世界をすべて理解することなど出来ない。それでも一歩一歩理解できる範囲を広げることは出来ると考えるのか。それとも「理解すること」は到達不可能な永遠の課題だという捉え方なのか。だとすれば不可知論の一歩手前である。ここの見極めがこの作品の評価の分かれ目だと思う。

 ラストで息子は父が飛ばしていた帆船の凧が木に引っかかっているのを見つける。息子はいろいろな結び目の名前を口にしながら凧のロープを手繰り寄せる。凧は枝からはずれ飛んでゆく。一瞬父親が息子にキスをするシーンが挿入される。「ごらん船が見えるだろ。天空の船乗りたちは時々碇を下ろして、地上の様子を見にくるんだ。」希望を感じさせるラストシーン。だがやはり抽象的だ。空飛ぶ船の象徴は感動的であるが、逃避的でもある。人間は時間と空間を越えて生きることは出来ない。奴隷がプランテーションから出られなかったように、江戸時代の農民が下人、非人という考えから逃れられなかったように。もっとも、だからこそ夢と希望が重要だともいえる。キング牧師の「夢」が感動的なのはその言葉が人々に希望を与える力を持っているからだ。希望がなければ人間は生きられない。「マゴニア」は希望を捨てていないがゆえに観るものに感動を与える。しかし一方で理想論的であり抽象的ですらある。そこに曖昧さが入り込む余地がある。

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コメント

 brunodujaponさん コメントありがとうございます。
 DVDを入手されたのですか。DVDはいつでも見直せるので便利ですよね。
 また時々お寄りください。
 ではよいお年を。

トラックバックありがとうございました。DVDも購入したのでまた見直してみようと思っていたところでした。ありがとうございます。また来させていただきます。

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