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2005年11月 1日 (火)

ウィスキー

2004年 ウルグアイ・アルゼンチン・独・スペインapple_w
監督:フアン・パブロ・レベージャ、パブロ・ストール
出演:アンドレス・パンス、ミレージャ・パスクアル
    ホルヘ・ボラーニ、アナ・カッツ

  日本で初めて公開されたウルグアイ映画である。ウルグアイではこれまでに60本の映画しか作られていないらしい。滅多に観ることのない珍しい国の映画だが、「ウィスキー」はカンヌ国際映画祭でオリジナル視点賞と国際批評家連盟賞をダブル受賞した。東京国際映画祭でもグランプリと主演女優賞を受賞している。なかなかの評価である。期待して観たのはいうまでもない。

  しかし正直がっかりした。どうもさっぱり面白くないのだ。退屈だったと言ってもいい。久しぶりに会う弟に見栄を張るために、靴下工場の経営者ハコボは従業員のマルタに弟がいる間だけ夫婦のふりをしてくれるように頼む。この設定に僕は何かほのぼのとした味わいの映画を期待していた。フランク・キャプラの名作「1日だけの淑女」あるいはその再映画化「ポケット一杯の幸福」を無意識のうちに連想していたのかもしれない。しかし、確かに設定はその通りなのだが、特になにが起こるわけでもない。淡々と話は進み終わってゆく。それだけだ。薄味すぎて物足りない。それが正直な感想である。

  「南米版アキ・カウリスマキ」という評もあるように、確かにアキ・カウリスマキを思わせる映画である。しかし同じカウリスマキの映画でも「マッチ工場の少女」はつまらなかったが、「過去のない男」はいい映画だと思った。後者にはドラマがあり、人のぬくもりが感じられたからだ。「ウィスキー」はカウリスマキの中でも前者のタイプに近いのかも知れない。

  「ウィスキー」はいわゆる「すべて説明することはせず、観客の想像に委ねる演出法」で作られていると言っていい。二人の監督たちは上映後の質疑に答えて「この映画というのは、答えを出すよりも問題を提起している、その数の方が多いものととらえております」と答えている。やはり意識的にそういう作り方をしている。僕は正直言ってこのタイプの映画が嫌いだ。このタイプの映画はほとんどいいと思ったことはない。僕は子どものころに夢中になって本を読んで育った。特に冒険物語に夢中だった。読む者をひきつけるストーリーがなければ満足できない。ドラマが好きなのだ。こういう塩の入っていないお粥の様な映画はどうしても物足りない。

  ただし、単に結末がいろいろに解釈できるという程度なら、それは別に構わない。そういう映画はたくさんある。問題は結末に至るまでのあまりに淡白な描き方である。そこに大したドラマがないことが不満なのである。突き詰めれば、恐らく「平凡な人生」ということの捉え方が問題なのだ。この映画では代わり映えのしない日常が淡々と描かれる。毎朝決まった時間に工場に行き、シャッターを開ける。決まった手順で明りをつけ機械のスイッチを入れる。毎日繰り返される全く同じ単純な作業。従業員同士では多少の会話があるが、ハコボとマルタは必要最低限の会話以外はほとんど言葉を交わさない。

  この映画にテーマがないわけではない。監督たちは「孤独感についての映画を作ったつもりでおります」と言っている。その「孤独感」をどう描くのか。問題はそこだ。人生の大部分は単調な出来事の繰り返しである。映画やドラマの様な大事件はそうそう起こるものではない。「犬猫」を取り上げた時に、「その日常の部分に光を当てる映画があってもいいはずだ。小津の映画だってその範疇に入る。日本の私小説もそうだ。ドラマとしては成立しにくいが、登場人物のささやかな夢やあわい恋心、些細な悩み、微妙な感情のゆれ、意識のひだ030712_02_qなどをクローズアップすることによって見るものの共感を誘う映画だって成立する」と書いた。さらに言えば、「共感」も絶対条件ではない。われわれはチャップリンの「殺人狂時代」のムッシュ・ベルドゥーに共感するわけではない。彼の「言い分」に重大な問題提起が含まれていることを認めはするが。もし何か絶対条件があるとすれば、「観客を退屈させないこと」ではないか。夢もなく日々孤独で退屈な人生を送っている人物を描いてもいいが、それを退屈しないように描かなければならない。そう思うのだ。「犬猫」「珈琲時光」「子猫をお願い」「リアリズムの宿」も日常を描いているが退屈ではなかった。

 では、どこが違うのか。これを説明するのは難しい。「平凡であること」、「日常的であること」と「生きるということ」は確かに結びついている。ハコボとマルタが毎日繰り返す単純な作業は彼らの生活である。そこには潤いはない。それは伝わってくる。そこに陽気でおしゃべりなエルマンがやってきて彼らの日常を破る。3人で過ごした数日間を通して確かにマルタは変わった。夫婦を装うことによって、そして陽気なエルマンと接することによって、マルタに女性としての自覚が発現してくる。だが変わったのはマルタだけだ。ハコボは相変わらず無口で無愛想である。エルマンはいつも変わらず調子がいい。二人は変わらないからあっさりと日常に戻れる。ハコボはまた同じ時間に工場のシャッターを開け、電灯と機械のスイッチを入れる。エルマンはひとしきりマルタと楽しむがまたブラジルの家族の元に帰ってしまう。しかしマルタは工場に現れない。変わってしまった以上同じ日常には戻れないのだ。

 理屈では分かる。だがなにせ面白くない。なぜ面白くないのか。

  監督たちは「ウィスキー」というタイトルをつけた理由を「いつわりの感情、真実を前にした嘘、“つくり笑い”。小さな嘘を重ねるうちに、登場人物たちは互いの絆を強めていく、そんな物語にしたかったので、『ウィスキー』というタイトルを付けた」と説明している。「ウィスキー」は写真を撮る時にかける言葉で、「チーズ」と言うのと同じである。「作り笑い」というのはそこから来ている。確かにハコボとマルタが偽の結婚指輪をはめ、偽装夫婦に成りすまして写真館で証拠の写真を撮った時に浮かべたぎこちない笑いは「作り笑い」だった。

 ぎこちなさは動きのない固定キャメラによる撮影によっても強調されている。監督たちの頭にあったのは絵本のイメージだという。つまり、絵がクローズアップされ、説明の文章はわずか。したがって映画もせりふが少なくキャメラは固定。徹頭徹尾「説明過多」を排除した映画なのである。その意味で理論的映画である。監督たちの思うとおりに人生を加工している。手法が主でテーマは漠然とあるだけ。批評家が喜びそうな映画だ。しかしどう観ても一般受けする映画ではない。もちろんハリウッド映画の様なつくりがいいと言いたいわけではない。だが、ここまで無機質な映画ではドラマは生まれてこない。一方、監督たちの説明にはいちいち納得してしまう。彼らの理論どおりの映画だからだ。その分豊かさがない。理論からはみ出る人生の豊かさがない。どうも物足りないと感じる理由はその辺にありそうだ。

 

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コメント

kimion20002000さん コメントありがとうございます。広島に出張していて返事が遅くなってしまいました。
なるほど小津ですか。劇的な要素を排するという点では確かに似ているかもしれませんね。ただ僕はあの「無機質なリズム」に乗れませんでした。
どこが違うのでしょうかね。あまりに淡々としすぎていると僕は感じたのですが、そうすると程度の差ということになります。しかしもっと質的な違いも感じます。小津にはもっと「情」が流れている気がします。「ウィスキー」はそこまで排してしまっている気がします。たぶんそこでの評価が分かれるのでしょうね。

こんにちは。
僕は、「違うでしょ」といわれそうですが、ちょっと小津監督を思い起こしたところがあったんですね。
無機質な表情の中に、ちょっと狼狽が見えたり、いそいそとしたり・・・。
なんか、退屈だなあ、と思いながら、ついつい映画の無機質なリズムが慣れてきてしまったところがあります。

ほんやら堂さん TB&コメントありがとうございます。
僕の不満は、一言で言えば、物足りないということです。3人のキャラクターは悪くないと思うのです。でも話の流れが平板で、せっかくの3人のキャラクターが活かされていない。そんな感じを受けました。ほんやら堂さんの「あと一息何か付け加えて欲しい」という感じ方とその意味では近いのかなと思っています。

ゴブリンさん,TB&コメント有り難うございました.
この映画,単純明快な映画ではないだけあって,相性によっては受け容れ難い場合もあるようです.
でも退屈な映画ではなかったと思います,寝なかったから.
只,ラストシーンで,うーんここで終わるかと思ったことでした.味のある映画だから,あと一息何か付け加えて欲しいと思ったのですが.

 rubiconeさん コメント&TBありがとうございます。
 みなさん面白かったとおっしゃる方が多くて、最近は楽しめなかったのが悔しいという気持ちになってきました。確かにするめの様な味わいのあるキャラクターをそろえていますからね。あの微妙な味を楽しめるかどうかの差なのでしょうね。
 いつかこの世界も取り込めるように成りたいなあ。まだまだ修行が足りません。

初めまして!TBありがとうございました。
なるほど~、と思いつつ記事を拝見させていただきました。
私はこの淡々さが逆に心地よく、そこに段々ひょいひょい覗く本音の顔におかしみを感じてました。

初めまして!
ご挨拶がてら、TBさせていただきました!

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