ロング・エンゲージメント
2004年 フランス・アメリカ
【スタッフ】
脚本:ギヨーム・ローラン
監督:ジャン・ピエール・ジュネ
撮影:ブリュノ・デルボネル
【出演】
オドレイ・トトゥ、ギャスパー・ウリエル、ドミニク・ピノン
クロビス・コルニヤック
ジェローム・キルシャー
ティッキー・オルガド、ドニ・ラバン、ドミニク・ベテンフェルド
アルベール・デュポンテル、マリオン・コティヤール
ジャン・ピエール・ベッケル
傑作「アメリ」のジャン・ピエール・ジュネ監督とオドレイ・トトゥが再び組んだ。今回は「戦場のミステリー」らしい。その程度の予備知識で借りてきた。まあ、悪くはないだろう。正直そんな気持ちだった。結果は、期待をはるかに上回る傑作だった。いや、素晴らしい。久々に胸のうち震えるような恋愛映画を観た。最後の最後まであきらめず、一途に恋人の生存を信じるオドレイ・トトゥのじっと前を見つめる目が脳裏に焼き付いてはなれない。韓国のラブ・ロマンス映画とは違う、本物のフランス映画の香り。地獄の様な戦場のリアルさ、黄色がかった映像の深み、幾重にも入り組み底の知れない謎、胸を打つエンディング。恋愛ミステリーの一級品である。
第一次大戦の激戦地として知られるソンム。冒頭の映像がすごい。雨が降り続き一面泥沼と化した戦場。フランス軍が塹壕を築いたあたりはどうやら元は教会が建っていたらしく、焼け残った木材があちこちに傾きながら、まるで荒らされた墓地の墓標のように立っている。画面手前にある1本の柱には破壊されたキリスト像の一部がぶら下がっている。別の柱にはカンテラが吊るされており、その火屋(ほや)を持ち上げて一人の兵士がタバコに火をつける。その兵士が振り向くと脛まで水がたまった塹壕を兵士たちがこちらに向かって進んでくる。その中に両手を縛られた5人の兵士がいる。彼らはわざと自分の手を銃で撃ちぬいたりして軍法会議で死刑を宣告された兵士たちだ。彼らは塹壕を追い出され、フランス軍とドイツ軍の間の中間地帯に追いやられる。事実上の死刑だ。ドイツ軍に撃たれる者、後ろから味方に撃たれる者、次々に倒れてゆく。やがてフランス軍は突撃を敢行し、5人がいた辺りは銃弾が飛び交い砲弾が炸裂する修羅場と化す。
その5人の中にマリク(ギャスパー・ウリエル)がいた。やがて彼の婚約者マチルド(オドレ
イ・トトゥ)の元に彼が戦死したという知らせが届く。しかし彼女は彼の死を信じない。数年後彼女は探偵を雇い、自分もゆかりの人物を尋ねてマリクの捜索を始める。一人また一人と話を聞くうちに「死刑」の真相が徐々に明らかになってゆく。マリクはドイツ軍の飛行機の機銃に撃たれて倒れたことも分かった。その時彼は木にMMMという文字を刻んでいたという。MMMとは何を意味するのか。それは彼とマチルダだけが知っているある感動的なエピソ-ドと結びついていた。
一方当時の関係者がある女性によって次々に殺されてゆく。彼女もまた「死刑」になったある兵士の関係者だった。一旦真相が見えそうになるが、また新たな謎が生まれ、混迷を深めてゆく。どうやら5人のうち3人は間違いなく死亡しているらしい。これには目撃者がいる。では他の二人は生きているのか、その二人の中にマリクはいるのか。少しずつすこしずつジグソーパズルのピースがはめ込まれてゆき、次々に意外な展開が待ち受けている。何かを隠しているような謎めいた関係者の表情、周りがあきらめてもなおマリクの生存を信じて疑わないマチルダの一途な思い。練りに練られた脚本が見事だ。
この真相追及のストーリーにマリクが出征するまでの二人の思い出の場面が差し挟まれる。この映像がまた実に美しい。小児麻痺で片足が不自由なマチルダを背負って灯台の階段を上る少年時代のマリクの姿が感動的である。
マチルダは塹壕があった場所にも足を運ぶ。何もない平地で、一面丈の高い草で覆われている。かつての激戦地の面影は全くない。そこで偶然見つけたあるものを除いて。それは事の真相とかかわる重要な伏線となる。もちろんここでは明かせない。
冒頭の戦場の場面からラストまで、複雑な展開を含みながら、ストーリーはよどみなく進んでゆく。登場人物が多く、途中で名前が混乱してくるので、映画を観ながら簡単な登場人物リストを作っておくといいかもしれない。
とにかくオドレイ・トトゥが素晴らしい。「アメリ」のちょっと変わった可愛らしさとはまた違う彼女の魅力と出会える。マリク役のギャスパー・ウリエルは「プライベート・ライアン」のマット・デイモンに似た感じで、好感が持てる。マチルダの育ての親である伯父夫婦も印象的だ(マチルダは子どもの頃に両親を亡くしている)。彼女を見守る優しい視線が画面に温かみを加えている。ぜひ一見を勧めたい優れた作品である。
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