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2005年10月 8日 (土)

山田洋次監督「故郷」

1972年 松竹kagaribisou-1
【スタッフ】
製作:島津清
脚本:山田洋次、宮崎晃
監督:山田洋次
音楽:佐藤勝
撮影:高羽哲夫
【出演】 倍賞千恵子、井川比佐志、渥美清、前田吟
          田島令子、矢野宜、阿部百合子、笠智衆

  「家族」と対になる作品である。どちらも島に住んでいた家族が生活苦のため故郷を出てゆく話である。「家族」は島を出て北海道に行くまでの旅を中心に描いていたが、「故郷」は島の生活を中心に据え移住を決意するまでを描いている。

  瀬戸内海に浮かぶ小さな島、広島県倉橋島。そこに石船と呼ばれる運搬船を操り、生活を営む一家がいた。石切り場から石を運び出し、船で運んで海に捨てる仕事だ。石を海に捨てる場面には思わずぎょっとした。網に石を入れてクレーンの様なもので持ち上げる。石を入れて大きく膨らんだ網の直径は2メートル近くある。かなりの重量だ。それをクレーンを回転させて船の真横に持ってくる。当然船はバランスを失って横に傾く。小さな船なので一瞬そのまま横転してしまうと思ってぎょっとしたのだ。しかし傾いたために甲板に乗せていた石が一気に海に落ち、それで船は浮力を得、さらに網の石も放出するかまたは船の方に戻してバランスを取り戻し、船は元に戻る。ちょうどダンプカーが荷台を傾けて積荷を落とすように、船自体を横に傾けて積んでいた石を海に落とすのである。まかり間違えば本当に横転しかねない危険な作業だ。このシーンはまるで記録映画のようなタッチで描かれている。

  この危険な作業をしているのは石崎一家。家長であり、大和丸の船長石崎精一(井川比佐志)、妻であり機関長の民子(倍賞千恵子)。他に精一の父仙造(笠智衆)と二人の子供がいる。もうひとり重要な登場人物として魚売りの松下がいる。演じているのはご存知渥美清。最初は声で登場する。軽トラックで魚を売りに来るのだが、マイクから彼の呼び声が流れてくるのである。その声を聞いただけで懐かしさがこみ上げてくる。稀有な俳優だ。彼は石崎一家とは親しく付き合っており、いい魚が入るとわざわざ自分で石崎の家まで持ってくる。そこで色々話をして帰ってゆく。時には家族の言い争いの場面に出くわしたりする。寅さんシリーズで言えばタコ社長の役割だ。

  この作品のかなりの部分は石舟で仕事をしている場面に当てられている。女の子を乗せ夫と妻が交代で舵を握る。石切り場で船に石を乗せる場面は最後に出てくるが、これもきわめて危険な作業である。ダンプカーが次々に石を運んできては甲板にどさっと投げ落とす。次にまた運んでくる間に石を置きなおして次に落とすスペースを作る。うっかりすれば指を挟んだり、足の上に石が落ちてきたりしかねない。山田監督は実際に俳優たちに何度も石舟の仕事をさせ、いかにも普段からその作業をやりなれている感じを出させている。エンジンの手入れをする井川比佐志の手つきや身のこなしは本物の船長のようである。

  監督がここまで石舟の仕事を強調するのは労働の現場をじっくりと描きたかったからに違いない。映画の中で労働の現場が記録映画のようにこまごまと描かれることはまれだ。たいがいはさっと真似事で終わる。多くの仕事は単調であったり極めて危険だったりする。単調な作業の繰り返しをじっくりと腰をすえて描いたのは新藤兼人監督の「裸の島」である。井戸と畑の間を何度も水桶を背負って往復する淡々とした動きを延々と描き続けた。これは労働そのものを描いた映画である。ロバート・フラハティの有名な記録映画「アラン」を思わせる。「故郷」はそこまで徹底して描いているわけではないが、石舟の仕事がどのようなものか観ているものには十分伝わる。さらにかつて同じ仕事をしていた精一の父仙造と魚屋の松下の会話を通して海の怖さが語られる。

sasa   「故郷」は「家族」と対になる作品だと上に書いた。もっと正確に言えば、「故郷」は「家族」の前段階を描いた作品だと言える。「家族」ではやっと食べてゆけるかつかつの生活を捨て北海道の開拓に希望を託すが、島の炭鉱でどのような仕事をしていたかはまったく描かれていない。登場人物の口から収入と出費がほぼ同じでこれでは生活してゆけないと語られるだけである。生活が苦しいのは「故郷」の石崎一家も同じである。精一は「油代を引けばほとんど何も残らない」と吐き捨てる様に言っている。「故郷」は苦しい石舟の生活を捨て、尾道の造船所で働くことを決意するところで終わる。この結末の部分が「家族」の出発点なのである。

  石崎の船は老朽化し、エンジンがもう限界に来ている。修理しようにも100万円かかると言われ、かといって新しい船を作る資金があるわけはない。どうにもならないぎりぎりのところまで追い詰められて、苦渋に満ちた選択をする。造船所で働けば給金は上がるが、そのためには親から受け継いだ仕事を捨て、住み慣れた故郷を出て行かねばならない。苦しい選択だった。

  「故郷」と「家族」は二本合わせてひとつの大きな物語を形作っている。したがってこの二本には多くの共通点がある。夫婦二人とその父は全く同じ俳優が演じている。子供が二人いるのも同じだ。ともに貧しく、故郷を追われ、新天地に希望を見出そうとする。しかしそれだけではない。この二本を通して描かれている一つの大きなテーマがある。そのテーマを暗示するのは「故郷」の最後に精一が妻に向かって口にする言葉である。「大きなものとは一体何だ?時代の流れとか、大きなものに負けると言うが、それは一体何を指しているのか」という問いかけ。「家族」を論じたときにも書いたが、ここに描かれたのはたまたま不運にあった不幸な家族ではない。60年代の高度成長期を経て、日本の産業構造は大きく変化していた。「大きな時代の流れ」は容赦なく弱いものを押し流してゆく。社会や経済の構造変化は個人の意思や一企業などの思惑を超えて作用する。古いものは壊され、次々に新しいものが生まれる。人込みで沸き返っている大阪万博の影で、故郷を失い、時代に押し流されて漂ってゆく人々が無数に生まれていた。「家族」と「故郷」の二つの家族自体が悪いのではない、他人が悪いのでもない。精一が船の修理を頼みに行った男も、時代が変わり彼が作った他の船が先日廃船になって燃やされたと話す。個人や集団の意志を超えて作用する大きな力はかたちを変えつつ常に存在している。無学な精一にはその力が何であるか理解できないが、確かに自分たちの力ではどうすることも出来ない「大きな力」がそこにある事は感じ取っていた。

  映画の結末近くで、精一と妻の民子は最後の仕事に出る。石を捨てて帰る途中二人は岸で燃やされている古い船を見る。精一が「大きなもの」と言ったのはその時だ。使い古され、その使命を終え燃やされている船はまさに彼ら夫婦の現状を象徴している。「家族」のラストは明るい調子で終わっている。朝鮮戦争による特需、東京オリンピック、大阪万博と三段跳びで成長していった日本経済は、80年代後半にはバブル景気に突入する。しかしその後バブルがはじけ、いまだ出口が見えない長期不況のトンネルに入る。二つの家族が故郷を出た70年代初頭はまだ日本の成長が続いていた時代だ。失ったものも多いが、「家族」の主人公たちは自分たちで新しい生活を切り開いていった。「故郷」の精一と民子も自分たちの生活を立て直せたのだろうか。

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