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2005年8月29日 (月)

遥かなるクルディスタン

winding-road1999年 トルコ・ドイツ・オランダ
監督、脚本:イエスィム・ウスタオウル
撮影:ヤケク・ペトリキ
出演:ニューロズ・バズ、ナズミ・クルックス、ミズギン・カパザン

 女性監督イエスィム・ウスタオウルの作品。トルコ領にすむクルド人ベルザンとトルコ人メフメットの友情を描いた映画だ。それにメフメットの恋人アルズ(ドイツ生まれのトルコ人)がからむ。クルド人を描いたトルコ映画というとユルマズ・ギュネイの映画と「少女ヘジャル」が思い浮かぶ。トルコのクルド人を描いた優れた映画がまた一本増えた。

 トルコ社会の矛盾が鋭く抉り出されている。クルド人に対するトルコ人の弾圧はすさまじい限りだ。なんでもない画面でも、絶えずそこには緊張と恐怖がみなぎっている。いたるところで検問が行われている。警察の弾圧ばかりではない。一般市民もクルド人に殴る蹴るの暴行を加えている。ベルザンとメフメットが出逢ったのも、リンチにあっているクルド人を助けたために暴徒に追われているメフメットをベルザンが助けたのがきっかけである。

 クルド人のベルザンは政治活動をしている。一方トルコ人のメフメットは水道局で働いている政治的には無垢の青年。世間知らずだ。だがそのメフメットも、検問所の前であわててバスを降りた男の隣にたまたま座っていたために、その男が残していった銃がメフメットのものだと疑われて豚箱にぶち込まれる。1週間ほどたって釈放されたが、顔中が腫れ上がっていることから激しい拷問を受けたことが分かる。まったくの濡れ衣だったが、警察に拘束されたというだけでメフメットは職を追われる。

 その出来事の後メフメットとベルザンとの絆は一層深まる。しかしその関係も長くは続かなかった。ハンストをしていたクルド人の一人が死亡する。クルド人たちが集会を開き、そこを警察が襲撃した。ベルザンは頭を割られて殺される。死体を確認に行ったメフメットは「やつらには死体を渡さない」と決意する。恋人のアルズが何とか頼み込んで身内ということにしてもらって死体を引き取る。

 メフメットは車を盗みベルザンの遺体を故郷のゾルドゥチに運ぼうとする。後半は鎮魂の旅に変わる。車は途中で故障してしまう。ヒッチハイクなどを重ねて彼はひたすら棺と旅をする。原色が目立った大都会イスタンブールを出た後、映画の色調は青を基調とした寒々しい色調に変わる。イスタンブールを出ると延々と何もない荒野が続く。荒涼とした土地ばかりだ。家々は貧しい。本多勝一が書いていた。アメリカのインディアン居留地は何もないやせ衰えた土地である。何でもいい、草一本であれ、虫一匹であれ、生命の兆しが見えたらそこは既に居留地の外であると。それほど極端ではないが、クルド人が住む地域も荒涼とした原野ばかりである。この旅は鎮魂の旅であるが、トルコ人メフメットがクルド人の生活を垣間見る旅でもあった。メフメットが一晩ホテルに泊まったクルド人の町は戦車に占領されていた。

 とどめはゾルドゥチの町。やっとの思いで着いたベルザンの故郷は、何とダム湖に沈んでいた。家や電柱などの上部だけがかろうじて水面に顔を出している。ゾルドゥチと書かれた錆びた標識が斜めに垂れ下がっている。メフメットはしばし呆然としていたが、やがて決意したように棺を湖に流す。

 それにしてもトルコとは何という社会か。いたるところで検問があり、しょっちゅう身分証の提示を求められる。まるで警察国家だ。クルド人の家には大きくペンキで×印が描かれている。ユダヤ人の家にダビデの星を書きなぐるのと同じ感性だ。黒人や彼らに同情的な白人の家の庭に火をつけた十字架を立てて脅すKKKと同じだ。抑圧的な社会は恐怖と暴力で反抗を押さえつけ、体制を守ろうとする。

 水に沈んだゾルドゥチの町の前にたたずむメフメットの目には何が見えていたのか。ダム建設のために住み慣れた町を追われた人々には、もはや帰るべき故郷すらない。行き場のない彼らはベルザンのように大都会イスタンブールに流れ込んでいった。それがまた摩擦を生む。悪循環。終わりのない矛盾。

 じっと湖を見つめるメフメットの表情にはもはやベルザンと出会う前の無垢な明るさはない。眉間にしわを寄せ、厳しいが、暗く愁いに沈んだ表情。国を持たない民族クルド人が夢見るクルディスタン(クルド人の国)はどこにあるのか。いつたどり着けるのか。その道のりはなお遥かであり、険しい。

 監督のイエスィム・ウスタオウルはトルコ人である。したがってクルド人を内側からではなく外側から描いている。映画の視点はトルコ人メフメットの視点である。イスタンブールではメフメットとベルザンはほぼ等分に描かれていたが、クルド人居住地区に入るとメフメットは観察者になってしまう。監督も主人公もトルコ人である以上、そこから先にはなかなか踏み込めない。アメリカ映画がベトナムを描くときにもこの問題が付きまとう。「プラトーン」はベトナムになぜ米兵がいるのかをかなり真剣に考察しようとした映画だが、そこにはやはり限界があった。その限界がどうしても映画そのものの視野を狭めていた。ベトナム人自身と同じ視点にはなれない。イラン人監督モフセン・マフマルバフがアフガニスタンを舞台に撮った映画「カンダハール」も、やはり観察者の限界を持っていた。しかし当事者側から描かなければ無意味だというわけではない。確かにある程度の限界はあるが、作者は様々な工夫を凝らしてそれを乗りこえようとする。相手の中に飛び込み、相手を理解しようとすることは重要である。結局は対立ではなく融和を追及しなければならないのだから。互いの側から同じ問題を描いた映画があっていいのだ。決して同じものにはならないが、それらが並存すること自体相互理解の土台となる。

 DVDに特典映像はついていないが、代わりにかなり充実したリーフレットが付いている。イエスィム・ウスタオウル監督のインタビューが興味深い。一般の日本人にはクルド語とトルコ語の違いはまったく分からないが、その点で面白い指摘がある。メフメットがゾルドゥチの町を目指して旅をしている途中トラックが故障してしまう。たまたま通りかかった車を呼び止めるが、運転手はメフメットを乗せるのを拒否する。その時後部座席に乗っていた女性がそれはイスラム教徒が取るべき態度ではないと非難する。その一言でメフメットは車に乗せてもらえる。この印象的なシーンについて監督はこう語っている。実はメフメットと運転手はトルコ語で話しているが、割って入った女性はクルド語で話していた。彼女は二人が何を話していたか分からないが、目で相手の気持ちを読み取ったのだと。言葉が違っていても人々は理解しあえることを描きたかったのだという。字幕だけ読んでいたのでは分からなかった。興味深い指摘である。

 クルド人の村でこの映画を上映したときのエピソードも印象的だ。村で映画が上映されるのは初めてだったそうである。ベルザンを演じた俳優の母親も映画を観に来ていた。その母親はトルコ語が分からない。しかし映画にひきつけられ、映画の中の出来事がまるで実際に起きたことのように反応していたそうだ。息子が死ぬ場面の反応ははっきり書かれていないが、恐らく本当に息子が死んだような反応を示したのだろう。そして映画が終わった時には村人全員が立ち上がり、ものすごい賞賛を受けたそうだ。

 日本で紹介されるトルコ映画は少ない。しかしまだまだ優れた映画が紹介されないままに残っているはずだ。今後トルコ映画がもっと日本で紹介されることを強く望む。

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