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2005年8月30日 (火)

水上勉『飢餓海峡』、内田吐夢「飢餓海峡」

tori1 深い感銘を覚えずにいられない傑作だ。上巻の方は杉戸八重が主人公だ。犬飼多吉からもらった大金を元に東京に出て、体を売りつつも人間性を失わずにたくましく生きてゆく。その間も恩人である犬飼多吉のことは決して忘れなかった。10年後たまたま見た新聞にその犬飼多吉の顔を発見した。売春が間もなく禁止され、娼妓をやめて故郷の下北に帰ってタバコ屋でも始めようと思っていた八重は、その前にこの恩人に一目会って先のことを相談しようと思って会いに行く。しかし昔の罪が露見することを恐れた樽見京一郎(犬飼多吉の本名)によって毒殺され、書生の青年とともに心中と見せかけて海に捨てられる。上巻の最後の部分、八重があっけなく殺されるあたりは、読んでいて切なかった。それまでの部分ですっかり彼女に感情移入していたからだ。

 下巻では、その心中事件を担当した京都の舞鶴署の刑事たちがやがてことの真相を見抜き、殺人事件として極秘捜査を始める。八重の父親の話から事件は10年前の事件とつながる。ここからは警察小説になる。函館の弓坂警部補が足を棒にして掴んだ手がかりを元に、舞鶴署の味村警部補が捜査を進める。やがて樽見京一郎の生い立ちと北海道での足取りが次第に明らかになってゆく。特に故郷の描写とそこでの京一郎一家の悲惨な暮らしは印象的である。父親が次男であったばかりに不便な山の上の畑しか与えられず、そこまで肥料を運び上げる途中で父親は死んだ。母親もやはり同じところで同じように肥料を運び上げているときに死んだ。一生懸命に肥料を運び上げても、大雨が降れば肥料は下の畑に流れ出す。下にある長男の畑は労せずして肥料を得る。

 さらに悲惨なのは一番下にある泥沼の様な田んぼだ。大人でも胸の辺りまで水に浸かる。夏でも冷水の様な水につかって田植えをしなければならない。健康な人間でも体が蝕まれてゆく。そんな両親を見て樽見京一郎は育ってきた。このあたりの人間像の深さがこの小説の優れたところである。社会派推理小説と呼ばれる所以である。並みの推理小説を遥かに凌駕する。その意味では松本清張の作品より優れていると思う。恐らく日本の推理小説の最高峰ではないか。推理小説の枠組みには入りきれないほどの社会的、人間的な広がりと深みがある。後半は警察の必死の捜査を通して樽見京一郎の人間像がジグソーパズルのように少しずつ姿を現してくる。後半の主人公は樽見京一郎である。この樽見京一郎と杉戸八重の2人を創造したことがこの小説の成功のかなりの部分を担っているといえるだろう。そのジグソーパズルは完全には完成しない。裁判を前に樽見京一郎が海に飛び込んで自殺してしまうからである。

 さらにこの小説に深みを加えたのは弓坂警部補と味村警部補の存在である。味村は、既に警察を引退し剣道の師範になっている弓坂の情熱に深い敬意を覚える。味村自身も捜査の鬼となり次々に樽見京一郎の過去を掘り起こしてゆく。この2人の情熱が事件を解決に結び付けたといってもよい。特に、10年後新たに捜査が始まり、自分が10年前に調べたことが決して無駄にはならなかったと述懐する弓坂の言葉は感動的だ。

 推理小説は日本では謎解きやトリックに重きが置かれ、小説としてつまらないものが多い。外国のミステリーを見ると、主人公の人間的側面が重視され、謎解きと同時に人間ドラマとしても読めるようになってきている。したがって無理なトリックなどはあまり重視されない。日本でも松本清張が見直され、宮部みゆきのような作家も出てきた。登場人物が単なる操り人形でなくなり、生きた人物として小説の中で動き始めたとき(実際そうだったと作者の水上勉はあとがきに書いている)、推理小説は本格小説になる。『飢餓海峡』はその数少ない例である。

 『飢餓海峡』を読んだ感動が冷めやらず、今度は映画の方が見たくなってレンタル店で「飢餓海峡」のビデオを借りる。昔映画館で見たときには文句なしの傑作だと思ったが、原作読了直後に見るとやはりいろいろな点で不満が残る。一番の不満は樽見京一郎の人間性の多面性がほとんど描かれず、単なる悪党のように描かれていることである。映画としては3時間の大作だが、それでも原作のかなりの部分を省略せざるを得ないので、ある意味では仕方のないことだ。人間像を複雑にすれば3時間では描ききれないと判断したのだろう。しかしそのために樽見京一郎の故郷での生い立ちと両親の苦労(例の畑と田んぼの話)がばっさりと切られている。

 もう一つ不満なのは弓坂(伴淳三郎)が今一つ活躍しないことである。彼の執念の捜査があってこそ事件は解決したのである。その部分が十分描かれていない。最後の頃に、船を焼いた灰を彼が樽見京一郎に渡す場面が付け加えられているが(原作にはないエピソード)、それを補うには不足していると感じた。

 他にも樽見京一郎の北海道での足取りを味村が掘り出してゆくところがまったく描かれていないなどの不満もあるが、このあたりは映画の制限で止むを得まい。原作と比べると見劣りするのは仕方がない。特に原作を読んだ直後だ。
   水上勉『飢餓海峡』上下(新潮文庫)

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