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2005年8月30日 (火)

重松清『定年ゴジラ』

ayu-3 期待以上に面白い本だった。東京の都心まで2時間かかるニュータウン(もはやニューではないが)に住む、定年になったばかりの男とその仲間たち(同じ定年組)を中心に描いている。働きづめの人生を送って来た企業戦士が定年を迎え、新しい人生に馴染めず、もがき悩む様が実にリアルに描かれている。

 題名の由来がまた悲しい。定年仲間の一人は当のニュータウンを開発した鉄道会社に勤めていた。彼こそそのニュータウンを設計した男である。彼ら設計士は設計したニュータウンが完成するとその模型をはでにぶっ壊すそうだ。ある日、主人公たちは公民館に保存されていたなつかしい街の模型を眺めながら酒盛りをしていた。みんな酔っ払ってきた頃、突然その設計士がガオ-と叫びながら自分が作った街の模型を踏み潰し始めた。まるで東京の街を破壊するゴジラの様に。初めは驚いていた仲間もやがて一緒に加わり、みんなで模型を踏み潰す。俺たちは定年ゴジラなんだと言いながら。何とも物悲しいエピソードだ。

 主人公は定年になったばかりだが、仲間はもっと早くから定年後の人生を送っている。その先輩たちが主人公に散歩の仕方や散歩に行くときの服装などについてあれこれとアドバイスをする。これがなるほどと思わせるほど説得力があるのだ。実際に定年を迎えた経験のある者でなければ思いつかないような細かな指摘。このような具体的な描写が作品の説得力を強めている。そして定年後の何ともせつない人生。仲間の一人は定年前の10年間、単身赴任で関西方面を転々としていた。会社を辞めて家に戻って来たが、完全に家族から浮いてしまっている。まるで今の方が単身赴任のようだ、という別の仲間の言葉が胸に突き刺さる。あるいは、定年になったとたんに奥さんから離婚され、朝から晩までサンドバッグを殴りつけている男も出てくる。近所迷惑なのでその男に止めるよう説得する役を主人公が町会長(定年仲間の一人)からおおせ付かる。文学的な深みはそれほどないのかもしれないが、人生の哀感を実にリアルに描いている。

 定年を迎えた元銀行員とその定年仲間「定年ゴジラ」たち。そしてもう一つ重要な役割を果たしているのは彼らの住むニュータウン、くぬぎ台である。一区画ずつ入居者を募集したので1丁目から2丁目、3丁目とゆくにつれて住民の年代が下がってゆくというユニークな構成になっている町である。主人公の山崎さんはどちらかというと平凡な性格だが、その仲間の「定年ゴジラ」たちは皆個性的である。町内会長の古葉さん、関西方面での単身赴任歴が長く関西弁を「何カ国語」も話せる野村さん、くぬぎ台を開発した藤田さん。皆それぞれ問題をかかえているが、散歩を楽しみにしているのが共通点である。散歩を通して彼らは知り合ったのである。その悩み事、それを表現する言葉や身振りが何ともリアルだ。

 作者は執筆当時は30歳代だった。自分の親の世代を描きたかったということだが、あのリアルな台詞や気持ちの表現はどうやって思いついたのだろうか。いろいろ取材もしたのだろうが、作家の想像力とは大したものである。主人公を「山崎さん」、その妻を「奥さん」と表記しているのが最初は気になったが、あえてこのような書き方にしたのは、子供の世代から親の世代を見る視点で書いているからだろう。最初は違和感があったが、読んでいるうちに慣れてくる。意図が分かれば納得が行くという訳でもないが、作者の独りよがりという外れ方はしていない。なぜならその視線が冷めていないからだ。後ろも振り返らず、足元も見ず一心に働いて来た親の世代への理解が根底にある。だから定年後の暇を持て余す空虚感、あるいはそれまで見えなかった家庭の中の不協和音や子供が大人になって新たに生じる問題にあたふたし、頭を抱える親父たちの苦悩が伝わってくるのだ。その暖かい視線は浅田次郎の『鉄道員』に通じる面がある。

 しかし作者は主人公たちに完全に共感しているわけではないし、人情に流されっぱなしというのでもない。そのいい例が、ある週刊誌の取材をめぐるドタバタである。各地のニュータウンを取材してはこき下ろしている雑誌なのだが、町会長はそれと知らず喜んで取材に協力を約束してしまう。しかし後でその雑誌の性格が判明し、大騒動になる。野村さんが生意気な学生を殴るという最悪の事態まで起きてしまう。山崎さんは取材の責任者である大学教員とその殴られた学生を車に乗せて町中を走る。若い世代が住む区画から始まり自分の住む区画へと車を進めながら、その町に住む人たちのこと、世代毎の生活の違いを説明して行く。それは自分の送って来た人生を振り返ることでもあった。最後に自分の住むところで自分と同じ世代の人たちのことを語って聞かせる。自分たちはこのように生きて来たんだと。表面だけを見て勝手に判断するなという気持ちを込めて。この部分は実に感動的である。助教授も神妙に聴いている。初めはぽかんとしていた学生の顔も深い表情に変る。しかし、助教授は学生たちにとっていい勉強になった礼を述べつつ、しかし評価は公正にすると言った。その言のとおり、彼女は結局厳しい評価を下した。5段階評価でEだった。山崎さんたちはその評価に説得力があることを認める。しかし、記事の最後に「ニッポンを支えてきたオヤジたちのお手並み拝見ですね」という学生のコメントが載っている。情に流されない、しかし冷め切ってもいない、このバランスの取れた描き方が素晴らしい。

 最後は娘万里のやっかいな問題も何とか片付き、山崎さんがいつものように散歩に出掛けるところで終わる。それにしても霊園のチラシがあると必ずそれを見るとか、家族写真を見てこの中から最初にいなくなるのは俺だななどと山崎さんが考えるところなど、何とも身につまされるほどリアルである。一番感心したのは、妻子のある男と付き合っている山崎さんの娘がその男の家族写真を見せる場面である。山崎さんは当たり障りのないことしか言えないが、奥さんはその写真を見るなり真っ二つに引き裂いてしまう。何か優しい言葉を掛けるのかと期待しているところにこの行動である。一体30代の作家にどうしてこんな場面が書けるのか。驚嘆すべき才能である。彼の本をもっと探して読んでみたくなった。

 うれしいのは、後にもう1本この続編が収められていることである。『帰ってきた定年ゴジラ』。何と山崎さんはパソコンを始めている。町会長の古葉さんが先に始めてもう使いこなしているからだ。訳の分からぬカタカナ言葉に苦心惨憺している姿がほほえましい。野村さんは奥さんに先立たれ、二人の息子も独立し、今は一人住まいをかこっている。そのせいで元気がなく、散歩にもあまり来なくなってしまった。果ては、パソコンの話に夢中の二人を怒鳴りつけてもう来るなと宣言する始末。しかしその後に感動的な話が待っていた。その野村さんが、突然山崎さんを訪ねて来る。奥さんがなくなる前にある雑誌に投稿していた短歌がホームページに載っているので見せて欲しいと、ばつの悪そうな顔で頼みに来たのである。その歌は野村さんが単身赴任中に、彼の居る地域の満開の梅の花をテレビが映しているのを見て詠んだ歌であった。その梅の花を見て、思わず庭の白梅を見上げたという歌だ。野村さんは叫ぶ。「分かった。昔と逆だ。今はお前が単身赴任なんだ。だから今度はわしが家を守らないかん。」これを機会に野村さんはまた仲間に戻る。北海道に転居した藤田さんからはメールで山崎さんに返事が来た。最後は、山崎さん、野村さん、町会長の古葉さんの三人が、同じ年に開発された名古屋のニュータウンの視察に向かうところで終わる。

 オヤジたちが老いにめげずに前に向かって進んで行く姿が読んでいて気持ちがいい。悠々自適というわけではないが、彼らは定年後自分の新しい人生を見つけつつある。それにしても、40年近くも同じ町に住んでいながら、定年後に初めて互いを知るとは何という人生か。残業、土日出勤当たり前という生活をその長さだけ送って来たのだ。まさに「プロジェクトX」の世代である。濡れ落ち葉の世代でもあり、日本を経済大国に作り上げた奇跡の世代でもある。今日、ほとんど肯定的に描かれることのない世代。彼らを美化することなく、生活という現実の中に丸ごと浸けて描く。貴重な作品だ。
   重松清『定年ゴジラ』(講談社文庫)

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» 重松 清 「定年ゴジラ」 (10) [映像作品作りませんか?]
読み終えて感じたことは、 「お父さんって可愛いな」 ってこと。 第一章でゴジラたる所以で感心し、 第二章で胸が熱くなり、第三・四章で涙し、 第五章で泣いて、笑って・・・。 とても心が暖かくなる作品だったな。 心震える名文もたくさんあって、 なんていうか、心地いい余韻が続く。 私は別に独り暮らしでもないし、 上京もしてないんだけど、懐かしさを覚える、そんな作品。 同時に、とても考えさせ... [続きを読む]

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