森浦への道
1975年 韓国映画
監督:イ・マニ
出演:ペク・イルソプ、キム・ジンギュ、ムン・スク
キム・ギボム、キム・ヨンハク、ソク・インス
チェ・ジェフン、ソク・ミョンスン
「森浦(サンポ)への道」は2人の男と一人の女が偶然出会いともに旅をするロード・ムービーだ。現場を渡り歩く工事労働者のノ・ヨルダル、10年の刑期を終えて故郷の森浦(サンポ)に帰る途中のチョン。そして酌婦のペッカ。男2人は町の居酒屋から逃げ出したペッカを連れ戻せば1万払うと女将にいわれてペッカを追った。しかし彼女を見つけて事情を聞くと居酒屋の女将の言うこととだいぶ違う。3人は連れ立って旅を続ける。ペッカはまだ20代だ。ノ・ヨルダルは理由は分からないが過去に深い悲しみを持っている。故郷がどこだと聞かれても教えない。故郷が俺に何をしてくれたと怒り出す。泣きながら野宿していた空き家の外に飛び出した彼をペッカが慰めようとするが、ノ・ヨルダルは彼女の手を払いのける。
そのころからチョンは2人は夫婦になるべきだと思い始めていた。彼はノにもそう言うが、ノは本気にしない。しかし二人は確かに惹かれあい始めていた。チョンの勧めによって本気で2人は一緒になろうと思い始めるが、ノは市場で買い物をしているとき、買い物にはしゃぐ彼女を置いてチョンと駅に行ってしまう。やはり決意し切れなかったのだ。2人が電車を待っていると、後からペッカも駅に来る。ノはぎりぎりまで迷うが結局彼女をひとりで汽車に乗せる決心をする。別れ際になけなしの金で彼女にゆで卵を買ってあげるシーンがなんとも切ない。
ペッカを見送った後2人は森浦(サンポ)行きの汽車に乗る。しかしペッカは汽車に乗ってはいなかった。一人駅に残ったペッカは駅前の店で男を呼び込んでいる店の女を眺めながら微笑む。結局彼女はまたもとの商売に戻り生きてゆくことが暗示されている。一方、森浦(サンポ)行きの汽車に乗ったノだが、汽車の中で労働者たちと親しくなり、途中の駅で降りて彼らと一緒に働くことにした。一人故郷に向かうチョンは、タクシーの運転手からこの10年間で森浦(サンポ)も大きく変わり、今では島に橋がかかり陸になったと教えられる。タクシーが大きな橋を渡る場面で幕。
3人の俳優がそれぞれに存在感がある。特に2人と分かれてひとり寂しく道を歩くペッカの悲しげな姿は忘れがたい。美人だがじゃじゃ馬タイプの役をムン・スクが印象的に演じている。今の韓国女優にはいない生活力を感じさせる女優だ。豪放な性格だが物静かで他の2人の気持ちを見抜く力を持ったチョン、お調子者でときどきほらを吹くが根は正直なノ・ヨルダル。三者三様の思いを内に秘めてしばし道を共にする。結局最後は3人ともばらばらになってしまうが、チョンはノに仕事がうまくいったらペッカを探せと別れ際に言う。森浦(サンポ)に架けられた新しい橋は2人の絆が切れていないことを暗示しているのだろうか。何も劇的なことが起こらない淡々とした映画だが、雪道を歩くシーン、焚き火を囲んで3人で話し合う場面など、忘れがたい場面がたくさんあるロードムービーの傑作のひとつである。
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