お気に入りブログ

  • 真紅のthinkingdays
    広範な映画をご覧になっていて、レビューの内容も充実。たっぷり読み応えがあります。
  • 京の昼寝〜♪
    僕がレンタルで観る映画のほとんどを映画館で先回りしてご覧になっています。うらやましい。映画以外の記事も充実。
  • ★☆カゴメのシネマ洞☆★
    細かいところまで目が行き届いた、とても読み応えのあるブログです。勉強になります。
  • 裏の窓から眺めてみれば
    本人は単なる感想と謙遜していますが、長文の読み応えのあるブログです。
  • なんか飲みたい
    とてもいい映画を採り上げています。短い文章できっちりとしたレビュー。なかなかまねできません。
  • ぶらぶらある記
    写真がとても素敵です。

お気に入りブログ 2

お気に入りホームページ

ゴブリンのHPと別館ブログ

無料ブログはココログ

2022年8月 8日 (月)

「出没!アド街ック天国」の魅力

 朝日新聞の2022年6月18日付の「テレビ時評」欄で「アド街」が紹介されていた。実はこの番組についてはだいぶ前に記事を書いてあったのだが、どうやらブログには載せていなかったらしい。どうして掲載しなかったのか理由は覚えていないが、一つ理由として考えられるのはいつのころからか上田では観られなくなったからということである。衛星放送に入っていれば観られたのかどうかわからないが、僕は衛星放送の契約はしていないので、地上波で放送していなければ観られないのである。

 それがなぜか今年に入って再び「出没!アド街ック天国」が長野放送で放送されるようになったのである。放送が始まって以来ずっと録画しているが、以前観ていた頃とはだいぶ変わっていた。まず司会の愛川欽也とアシスタントの女性アナウンサーがいなくなった。「あなたの街の宣伝本部長」愛川欽也は亡くなったので出ていないのは当然だが、進行役がいなくなったため、取り上げた街の「ベスト20」からいきなり始まる。これだって以前は「ベスト30」だったのが「ベスト20」に減っている。さらに、かつてはゲストトークの時間がたっぷりとってあったが、今は「ベスト20」紹介の合間にちょっとさしはさまれるだけ。「薬丸印の新名物」や最後に地域のコマーシャルを作るという楽しみもなくなっていた。以前の充実した番組と比べると何とも味気ない番組になっていた。何しろ10数年ぶりに観たのだから、ずっと観ていた人よりその激変ぶりを如実に感じるわけだ。その一方で変わらないものもある。女性コレクションのコーナーだ。しかも音楽も昔と一緒。これには逆にびっくりした。

 僕はあまり旅行をしないが、旅行番組は割と好きだ。実際に出かけるという面倒なことを省略して、家で美味しいところだけいただく。長野で冬季オリンピックが行われた時も一度も見に行かなかったし、行ってみたいとも思わなかった。わざわざ寒いところでしかも人垣の頭越しに遠くから見るよりも家のテレビでぬくぬくと温まりながらアップや解説も交えて観る方がずっと良い。大きなコンサート・ホールで聴くよりもCDでライヴ版を聞く方が楽だし、実際に聞きに行くなら小さなライブハウスの方が良い。東京にいたころは新宿の「ルイード」や渋谷の「エッグマン」などのライブハウスによく通った。すぐ間近で見られるのでもっぱら若い女性歌手ばかり選んで聞きに行っていた(というか見に行っていた)。

 閑話休題。ともかく旅行番組は結構好きだ。もうだいぶ昔だが「兼高かおる世界の旅」なんかもよく観ていた。今お気に入りの旅行番組、あるいは地域紹介番組は「出没!アド街ック天国」のほかに、「ブラタモリ」、「世界遺産」、「世界ふれあい街歩き」などである。この4つは番組としての水準は相当に高い。有名人が大騒ぎしながら行列ができる店や観光名所などを紹介する番組はどれもつまらない。「出没!アド街ック天国」は昔に比べたらずいぶんやせ細った感じではあるが、それでもまだ十分面白い。

 始まったころの「出没!アド街ック天国」がどんな感じだったかを最近見始めたばかりの人たちに紹介する意味もあると思うので、昔書いた文章をこの後に載せておきます。最初からずっと観てきた人たちには懐かしいかもしれません。

 

 

 最近はテレビを観ることも少なくなった。テレビをつけるのはDVDを観るためである事が多い。そんな状態でも毎週録画している(注:録画したものの大部分はVHSビデオだったので今は全部捨ててしまった)番組が1つだけある。「出没!アド街ック天国」である。

 「アド街ック天国」はいつ頃から始まった番組かはっきりとは分からないが、もう10年はたっているのではないか(注:上記朝日新聞の記事で1995年4月スタートと判明)。現在長野朝日放送で日曜日の12時から放送されている。ただ、残念なことにまだ完全なレギュラー番組にはなっていない。つまり、必ず毎週放送されるわけではなく、何か特別な番組が入るとそちらに差し替えられてしまうのだ。今の時期だと高校野球の地方大会の放送でこの2週間「アド街ック天国」はお休みである。要するにほとんど埋め草的扱いを受けているのだ。それどころか、毎年のように放送局や放送曜日が変わる。ひどいときにはまったく放送されなかった年もある。今年はほぼ毎週放送されているが、ただ放送される内容は東京12チャンネルより数週間遅れている。何年か前、お盆で実家に帰っていたときに「アド街」を見ていて、その1月後くらいに上田で同じ放送を見たことがある。実家で見たことはすっかり忘れていて、どうして見覚えがあるのだろうかとキツネにつままれたような気分になったことがあった。

 この番組は「地域密着型エンターテインメント」という極めて珍しいタイプの番組であり、番組構成と出演者の魅力という点で出色のスグレモノ番組である。番組の構成はいたって単純である。東京の諸地域(例えば千歳烏山、戸越銀座、本所吾妻橋、東浅草、自由が丘のような単位)や時には地方都市(例えば大阪新世界、横浜本牧、逗子など)を毎回取り上げ、その地域のシンボル的名所、その地域を代表する名店などのベスト30を紹介してゆき、最後に番組がその地域のコマーシャルを作るというものである。これだけでも楽しいのだが、司会の愛川欽也(自称「あなたの街の宣伝本部長」)と大江麻理子(初代は八塩圭子)、レギュラー・メンバーの薬丸裕英、峰竜太、毎回変わるその地域ゆかりのゲスト、そしてコメンテイターの山田五郎(初代は泉麻人)の間のやり取りが実に面白い。

 毎回同じパターンなのだが、少しも飽きないのはレギュラーとゲストの魅力を見事に引き出しているからである。特にレギュラー陣がいい。山田五郎には尊敬すら感じる。その知識の豊富さ、マニアックさ、発想の柔軟さがすごい。地域のコマーシャルを作る時にキーワードを皆で考え出すのだが、彼の発想は抜群である。横浜の「港未来」をテーマに取り上げたときは、港に群がる恋人たちが互いに見詰め合っている絵をバックに流れるキーワードが「港見ない」だった!薬丸君はいつも駄洒落路線だが、彼もすっかりこれにはお株を取られた感じだった。ゲストもまた多彩だ。特になぎら健壱がそのすっとぼけた持ち味を出していて実にいい。彼は準レギュラー的存在で、下町を取り上げたときには必ず出てくる。毎回最後の地域コマーシャルには彼自身が出演し、そのいずれもが傑作である。ギターの弾き語りで珍妙な歌を歌いながらその地域を歩き回るパターンが多いが、彼の人柄がうまく生かされていていつも感心する。いつか是非下町コマーシャル特集をやってほしい。ちょっとしたコーナーも充実していて、中でも「薬丸印の新名物」にはいつも笑わされる。レギュラーの薬丸裕英がテーマの地域に行ってそこの名物を探してきて紹介するのだが、いつもしょぼくてかえって面白いのである。時々掘り出し物があって感心することもある。

 このようにメンバーのやり取りが魅力なのだが、やはり何と言っても僕がこの番組に感じる一番の魅力は東京という街そのものの魅力である。東京以外の都市を取り上げることもあるが、ほとんどは東京の一角を取り上げている。東京という巨大な街のさまざまな地域を、拡大鏡を通してみたように微視的に取り上げている番組は他にない。いや雑誌などでもないだろう。雑誌の特集は取り上げる地域もテーマも限られている。普通の住宅街が取り上げられることはない。東京は人形町、経堂、谷中、王子、渋谷、日本橋、どこをとってもきわめて個性のある町で、それぞれに違った顔を持っている。それが東京の魅力である。東京を離れて長いが、まだまだ知らない東京がある。知っていると思っていた地域でも意外な顔があったりする。東京というメガシティの持つ多彩な顔、ここに一番惹かれるのだ。

 その地域の歴史や地名のいわれなども間単に紹介されている。ベスト30に選ばれるものも、最近のグルメブームの反映でレストラン等の食べ物屋が多く選ばれているきらいはあるが、誰でも知っている名所や有名な老舗などももれなく入っていて、極端な偏りがないところもいい。食べ物も、グルメ番組などで有名人やアナウンサーが食べに行って大仰に「うまい」などと叫んでいると、かえって本当かと疑いたくなるが、この番組では実際に行ったことのある出演者が「そうそう、あのタレが本当にうまいんだよねえ」などと言い合いながら進めてゆくので、その点いやみや宣伝臭がない。

 青年時代の12年間を過ごしたせいだろうか、いまだに東京には惹かれるものがある。なかなか実際に東京の街をゆっくりと歩いている時間は取れないのだが、東京の街歩きを主題にした本はよく読む。四方田犬彦の『月島物語』、なぎら健壱の『下町小僧』や『東京酒場漂流記』、『東京の江戸を遊ぶ』、『ぼくらは下町探検隊』、川本三郎の『私の東京万華鏡』や『私の東京町歩き』、森まゆみの『不思議の町根津』や『谷中スケッチブック』などのいわゆる「谷根千」ものなど、他にもいろいろ読んだ。また、東京の地名がついた小説にもなぜかひかれる所があって、つい何冊も買ってしまう。森田誠吾の『魚河岸ものがたり』(築地が舞台)と『銀座八邦亭』を読んだのもそのせいで、藤沢周平の『本所しぐれ町物語』は実在しない町だが、これも同じ関心から手を出したものである。買ったまま読んでいない本も多いのだが、これからも東京の地名のつく本を買い続けるだろう。

 「アド街ック天国」のビデオやDVDは出ないのだろうか。こういう番組こそDVDがほしい。つまらないドラマなど出すよりもっと教養系の番組をDVDにすべきだ。NHKの番組にはDVDにしてほしいものがたくさんある。海外でもBBC製作のものは出色の出来である。一部ビデオやDVDも出てはいるが、教養系のビデオやDVDは本数が少ないせいだろうが、値段が高い。でも、「アド街ック天国ベスト30」などというDVDがあったら高くても買いたい。せめてテレビで連日3日くらいかけてベスト版総集編でもやってくれないものか。
(2005年7月26日)

 

私家版 Who’s Who その3 クリント・イーストウッド

【クリント・イーストウッド】1930年、カリフォルニア州サンフランシスコ生まれ

 クリント・イーストウッド。数々のスターを輩出したハリウッドでもこれほど長い間第一線で活躍し続けている人物は珍しいだろう。なにしろ彼は僕が子供のころ既にスターだったのだ。テレビの「ローハイド」。当時の大人気番組だった。「ローン・レンジャー」、「コンバット」、「パパ大好き」、「名犬ラッシー」、「名犬リンチンチン」、「奥様は魔女」、「突撃マッキーバー」、「トムとジェリー」等々、おっと「ララミー牧場」と「ライフルマン」も忘れちゃいけない。今の世界中の子供たちが日本製アニメで育ったように、あの頃の日本の子供はみんなアメリカのテレビ番組を観て育ったのである。ところで「ローハイド」とはカウボーイたちがズボンの上に着ける革製のカバーのことだが、いったい何のためにあのバサバサしたものを着けているのかいまだによく分からない(ドラマではそこから転じてカウボーイ自体を指しているようだが)。

 そしてマカロニ・ウエスタン時代。高校生から大学生の頃はジョン・ウェイン、ゲーリー・クーパー、バート・ランカスター、グレゴリー・ペック、ジェームズ・スチュワート、ヘンリー・フォンダ、グレン・フォード、アラン・ラッドなどが活躍する正統派西部劇も好きだったが、どちらかというとマカロニ・ウエスタンの乾いた感じの方が好きだった。ジュリアーノ・ジェンマ、リー・ヴァン・クリーフ、ジャン・マリア・ヴォロンテ、フランコ・ネロ、そしてクリント・イーストウッド。マカロニ・ウエスタン時代のイーストウッドは、ひげ面に葉巻をくわえた苦みばしった顔が実に格好よかった。

 そして何といっても「ダーティハリー」(1971年)。これで一気にスターから大スターになった。その後しばらく80年代ぐらいまでは「ダーティハリー」シリーズの印象が強く、ややマンネリの印象を持っていた。90年代はさらに印象が薄かった。ただし、この記事を書くためにこの間70年代から90年代の作品を集中的に観たが、どれも悪くない。88年の「バード」でジャズの世界を描き、方向転換をした感じを受けた。ただし「バード」は映画としては今一つという印象で、むしろ製作総指揮を務めたドキュメンタリー「セロニアス・モンク/ストレート・ノー・チェイサー」の方が個人的には好きだ。監督業にも手を出していると意識し始めたのもこの頃か。実は既に1971年の「恐怖のメロディ」から監督をやっていたのだが、まだこの頃までは俳優のイメージが強かった。本格的に監督になったと感じたのは1992年の「許されざる者」あたりからだが、「マディソン郡の橋」(1995年)、「スペース・カウボーイ」(2000年)、「ミスティック・リバー」(2003年)などはどれも評判ほど優れた作品だとは思えなかった。この頃のイーストウッドはだいぶ枯れてきて、俳優としては昔とはまた別の味が出てきてよかったのだが、監督としてはまだたいしたことはないという認識だった。

 僕が彼を監督としても一流だと初めて認めたのは「ミリオンダラー・ベイビー」(2004年)だった。これは群を抜く傑作で、監督としても俳優としても素晴らしいと思った。細い体形は昔のままだが、髪はすっかり白くなって後退し、顔には深い皺が何本も刻まれている。すっかりじい様だ。昔の苦みばしった顔もいいがこの枯れた味わいもいい。演出も今様のめまぐるしいアクション映画とは一線を画し、悠揚迫らぬ落ち着いた展開。モ-ガン・フリーマンとの老優二人のコンビがまた抜群だった。

 この画期的作品で吹っ切れたかのように、その後は破竹の勢いで傑作を送り出し続けていることはご存じの通りだ。彼の作品は(監督、俳優両方含めて)40本以上観てきたが、真に驚くべきことは全く駄作がないことだ。60年以上映画にかかわってきて、つまらないと思う作品が1本もない(少なくともこれまで観てきた範囲では)。まさに奇跡のような存在。今やアメリカ映画界を代表する、いや世界の映画界を代表する巨匠である。

 

<クリント・イーストウッド出演作・監督作 おすすめの25本>
「ローハイド」(1959~1966)TVドラマ
「荒野の用心棒」(1964)セルジオ・レオーネ監督、イタリア・スペイン・西ドイツ
「夕陽のガンマン」(1965)セルジオ・レオーネ監督、イタリア・スペイン
「恐怖のメロディ」(1971)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「ダーティハリー」(1971)ドン・シーゲル監督、アメリカ
「荒野のストレンジャー」(1972)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「アイガー・サンクション」(1975)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「アウトロー」(1976)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「ガントレット」(1977)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「アルカトラズからの脱出」(1979)ドン・シーゲル監督、アメリカ
「ペイル・ライダー」(1985)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「ザ・シークレット・サービス」(1993)ウォルフガング・ペーターゼン監督、アメリカ
「パーフェクト ワールド」(1993)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「目撃」(1997)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「スペース・カウボーイ」(2000)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「ブラッド・ワーク」(2002)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「ミリオンダラー・ベイビー」(2004)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「父親たちの星条旗」(2006)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「グラン・トリノ」(2008)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「チェンジリング」(2008)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「インビクタス/負けざる者たち」(2009)クリント・イーストウッド監督
「アメリカン・スナイパー」(2014)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「ジャージー・ボーイズ」(2014)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「運び屋」(2018)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「クライ・マッチョ」(2021)クリント・イーストウッド監督、アメリカ

<こちらも要チェック>
「リチャード・ジュエル」(2019)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「ヒアアフター」(2010)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「硫黄島からの手紙」(2006)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「トゥルー・クライム」(1999)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「ダーティハリー5」(1988)バディ・ヴァン・ホーン監督、アメリカ
「ブロンコ・ビリー」(1980)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「戦略大作戦」(1970)ブライアン・G・ハットン監督、アメリカ
「荒鷲の要塞」(1968)ブライアン・G・ハットン監督、アメリカ。イギリス
「マンハッタン無宿」(1968)ドン・シーゲル監督、アメリカ
「奴らを高く吊るせ!」(1968)テッド・ポスト監督、アメリカ

 

 

2022年8月 1日 (月)

先月観た映画 採点表(2022年7月)

「砂の女」(1984)勅使河原宏監督、日本 ★★★★☆△
「鉄道員」(1956)ピエトロ・ジェルミ監督、イタリア ★★★★☆
「あなただけ今晩は」(1963)ビリー・ワイルダー監督、アメリカ ★★★★☆
「ブラディ・サンデー」(2002)ポール・グリーングラス監督、イギリス・アイルランド ★★★★☆
「タレンタイム=優しい歌」(2009)ヤスミン・アフマド監督、マレーシア ★★★★☆
「おとなの事情」(2016)パオロ・ジェノヴェーゼ監督、イタリア ★★★★☆
「大地と白い雲」(2019)ワン・ルイ監督、中国 ★★★★△
「料理は冷たくして」(1979)ベルトラン・ブリエ監督、フランス ★★★★△
「あなたの名前を呼べたなら」(2018)ロヘナ・ゲラ監督、インド・フランス ★★★★△
「コンドル」(1939)ハワード・ホークス監督、アメリカ ★★★★△
「裸足のイサドラ」(1968)カレル・ライス監督、イギリス ★★★★△
「ペトルーニャに祝福を」(2019)テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ監督、北マケドニア・仏・ベルギー・クロアチア・スロヴェニア ★★★★△
「怒り」(2016)李相日監督、日本 ★★★★△
「東京アンタッチャブル」(1962)村山新治監督、日本 ★★★★△
「しゃぼん玉」(2016)東伸児監督、日本 ★★★★△
「警視庁物語 遺留品なし」(1959)村山新治監督、日本 ★★★★△
「空港の魔女」(1959)佐伯清監督、日本 ★★★★
「ローズメイカー 奇跡のバラ」(2020)ピエール・ピノー監督、フランス ★★★★
「あの日の指輪を待つきみへ」(2007)リチャード・アッテンボロー監督、英・カナダ・米 ★★★★
「イーグル・アイ」(2008)D・J・カルーソー監督、アメリカ ★★★★
「地中海殺人事件」(1982)ガイ・ハミルトン監督、イギリス ★★★★
「イップ・マン 完結」(2019)ウィルソン・イップ監督、中国・香港 ★★★★
「警視庁物語 七人の追跡者」(1958)村山新治監督、日本 ★★★★
「警視庁物語 追跡七十三時間」(1956)関川秀雄監督、日本 ★★★★
「危険な航海」(1953)ジョセフ・M・ニューマン監督、アメリカ ★★★★
「警視庁物語 白昼魔」(1957)関川秀雄監督、日本 ★★★★
「警視庁物語 十代の足どり」(1963)佐藤肇監督、日本 ★★★★
「クリスタル殺人事件」(1980)ガイ・ハミルトン監督、イギリス ★★★★▽
「火口のふたり」(2019)荒井晴彦監督、日本 ★★★★▽
「プレイモービル マーラとチャーリーの大冒険」(2019)リノ・ディサルヴォ監督、米 ★★★★▽
「操作された都市」(2017)パク・クァンヒョン監督、韓国 ★★★★▽
「動乱」(1980)森谷司郎監督、日本 ★★★★▽
「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」(2021)江口カン監督、日本 ★★★☆
「劇場版コードブルー ドクターヘリ救急救命」(2018)西浦正記監督、日本 ★★★☆
「クライシス」(2021)ニコラス・ジャレッキー監督、アメリカ ★★★

 

主演男優
 5 ピエトロ・ジェルミ「鉄道員」
   ジャック・レモン「あなただけ今晩は」
   ケイリー・グラント「コンドル」
   森山未來「怒り」
   モハマド・シャフィー・ナスウィップ「タレンタイム=優しい歌」
   林遣都「しゃぼん玉」
   三國連太郎「東京アンタッチャブル」
   マヘシュ・ジュガル・キショール「タレンタイム=優しい歌」
   ドニー・イェン「イップ・マン 完結」
   マルコ・ジャリーニ「おとなの事情」
   丹波哲郎「東京アンタッチャブル」
 4 高倉健「空港の魔女」
   高倉健「東京アンタッチャブル」
   チ・チャンウク「操作された都市」
   岡田英次「砂の女」
   柄本佑「火口のふたり」
   山下智久「劇場版コードブルー ドクターヘリ救急救命」

 

主演女優
 5 シャーリー・マクレーン「あなただけ今晩は」
   ヴァネッサ・レッドグレーヴ「裸足のイサドラ」
   シャーリー・マクレーン「あの日の指輪を待つきみへ」
   ジーン・アーサー「コンドル」
   パメラ・チョン「タレンタイム=優しい歌」
   タナ「大地と白い雲」
   久保菜穂子「空港の魔女」
   ティロタマ・ショーム「あなたの名前を呼べたなら」
 4 カトリーヌ・フロ「ローズメイカー 奇跡のバラ」
   ゾリツァ・ヌシェヴァ「ペトルーニャに祝福を」
   岸田今日子「砂の女」
   アンナ・フォリエッタ「おとなの事情」
   カシア・スムートニアック「おとなの事情」
   瀧内公美「火口のふたり」

 

助演男優
 5 クリストファー・プラマー「あの日の指輪を待つきみへ」
   ピート・ポスルスウェイト「あの日の指輪を待つきみへ」
   綿引勝彦「しゃぼん玉」
   加藤嘉「空港の魔女」
   花澤徳衛「空港の魔女」
 4 ベルナール・ブリエ「料理は冷たくして」
   小沢栄太郎「警視庁物語 七人の追跡者」
   リチャード・バーセルメス「コンドル」

 

助演女優
 5 市原悦子「しゃぼん玉」
   渡辺美佐子「東京アンタッチャブル」
 4 藤井美菜「しゃぼん玉」
   戸田恵梨香「劇場版コードブルー ドクターヘリ救急救命」
   小宮光江「警視庁物語 七人の追跡者」
   リタ・ヘイワース「コンドル」

 

2022年7月29日 (金)

これから観たい&おすすめ映画・BD(22年8月)

【新作映画】公開日
7月20日
 「あなたと過ごした日に」(2020)フェルナンド・トルエバ監督、コロンビア
7月22日
 「アウシュヴィッツのチャンピオン」(2020)マチェイ・バルチェフスキ監督、ポーランド
 「こどもかいぎ」(2022)豪田トモ監督、日本
7月29日
 「霧幻鉄道 只見線を300日撮る男」(2021)安孫子亘監督、日本
 「なまず」(2018)イ・オクソプ監督、韓国
 「ジュラシック・ワールド 新たなる支配者」(2022)コリン・トレヴォロウ監督、アメリカ
 「ムーンフォール」(2021)ローランド・エメリッヒ監督、アメリカ
 「アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台」(2022)エマニュエル・クールコル監督、仏
 「1640日の家族」(2021)ファビアン・ゴルジュアール監督、フランス
 「今夜、世界からこの恋が消えても」(2021)三木孝浩監督、日本
 「C.R.A.Z.Y.」(2005)ジャン=マルク・ヴァレ監督、カナダ・モロッコ
7月30日
 「北のともしび ノイエンガンメ強制収容所とブレンフーザー・ダムの子どもたち」(2022)東志津監督、日本
8月5日
 「長崎の郵便配達」(2021)川瀬美香監督、日本
 「L.A.コールドケース」(2018)ブラッド・ファーマン監督、米・英
 「きっと地上には満天の星」(2020)セリーヌ・ヘルド監督、アメリカ
 「プアン/友達と呼ばせて」(2021)バズ・ブーンビリヤ監督、タイ
 「ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言」(2020)ルーク・ホランド監督、英・米
8月6日
 「雪道」(2015)イ・ナジョン監督、韓国
 「掘る女 縄文人の落とし物」(2022)松本貴子監督、日本
8月11日
 「TANG タング」(2022)三木孝浩監督、日本
 「ぜんぶ、ボクのせい」(2022)松本優作監督、日本
8月12日
 「ストーリー・オブ・マイ・ワイフ」(2021)イルディコー・エニェディ監督、ハンガリー・独。他
 「キングメーカー 大統領を作った男」ビョン・ソンヒョン監督、韓国
8月19日
 「バイオレンスアクション」(2022)瑠東東一郎監督、日本
 「サバカン SABAKAN」(2022)金沢知樹監督、日本
8月20日
 「復讐は私にまかせて」(2021)エドウィン監督、インドネシア・シンガポール・独

 

【新作DVD・BD】レンタル開始日
7月22日
 「淪落の人」(2018)オリヴァー・チャン監督、香港
 「余命10年」(2022)藤井道人監督、日本
7月27日
 「燃えよ剣」(2020)原田眞人監督、日本
8月3日
 「アンビュランス」(2022)マイケル・ベイ監督、アメリカ
 「オペレーション・ミンスミート ―ナチを欺いた死体― 」(2021)ジョン・マッデン監督、米
 「声もなく」(2020)ホン・ウィジョン監督、韓国
 「ゴヤの名画と優しい泥棒」(2020)ロジャー・ミッシェル監督、イギリス
 「こんにちは、私のお母さん」(2021)ジア・リン監督、中国
 「親愛なる同志たちへ」(2020)アンドレイ・コンチャロフスキー監督、ロシア
 「バーニング・ダウン 爆発都市」(2020)ハーマン・ヤウ監督、香港・中国
 「ベルファスト」(2021)ケネス・ブラナー監督、イギリス
 「ライフ・ウィズ・ミュージック」(2021)シーア監督、アメリカ
 「ウェディング・ハイ」(2022)大九明子監督、日本
8月17日
 「スパークス・ブラザーズ」(2021)エドガー・ライト監督、英・米
 「ちょっと思い出しただけ」(2021)松居大悟監督、日本
8月19日
 「ガンパウダー・ミルクシェイク」(2021)ナヴォット・パブシャド監督、仏・独・米
 「355」(2022)サイモン・キンバーグ監督、イギリス
8月24日
 「マリー・ミー」(2021)カット・コイロ監督、アメリカ
9月2日
 「オートクチュール」(2021)シルヴィ・オハヨン監督、フランス
 「コーダ あいのうた」(2021)シアン・ヘダー監督、アメリカ・フランス・カナダ
 「国境の夜想曲」(2020)ジャンフランコ・ロージ監督、イタリア・フランス・ドイツ
 「ニトラム/NITRAM」(2021)ジャスティン・カーゼル監督、オーストラリア
 「パーフェクト・ノーマル・ファミリー」(2020)マルー・ライマン監督、デンマーク
 「MEMORIA メモリア」(2021)アピチャッポン・ウィーラセタクン監督、タイ・仏・独、他
9月9日
 「とんび」(2022)瀬々敬久監督、日本
9月14日
 「世の中にたえて桜のなかりせば」(2021)三宅伸行監督、日本

 

【旧作DVD・BD】発売日
7月22日
 「抵抗」(1956)ロベール・ブレッソン監督、フランス
7月27日
 「ヴィム・ヴェンダース ニューマスター Blu-fay BOX ③」(1989-99)
  収録作品:「夢の涯までも」「都市とモードのビデオノート」「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」
8月19日
 「エリック・ロメール Blu-fay BOX Ⅳ」(80, 81, 83)
  収録作品:「飛行士の妻」「美しき結婚」「海辺のポーリーヌ」
9月2日
 「子猫をお願い」(2001)チョン・ジェウン監督、韓国

 

*色がついているのは特に注目している作品です。

 

2022年7月24日 (日)

なぜ映画を早送りで観るのか

 稲田豊史著『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)という本が出ているらしい。まだ読んでいないし読む気もないが、書評によると「なぜ映画を早送りで観るのか」という問いの答えは、時間がない、早く結末が知りたい、タイムパフォーマンスが良い、LINEなどでの付き合いで話題に乗り遅れないようにしたい、などのようだ。確かにそうだろうとは思う。しかしこの問題にはもっとさかのぼって理由を探る必要があると思う。

 知っていること自体が価値だという考え方。番組のタイトルは忘れたが、日本人の数割しか知らないことを知っているかどうかを競う番組があった。「ハナターカダカ」というキャッチフレーズがそれを端的に表している。要するに、かつてクイズ番組が一世を風靡していた時のように、膨大だが細切れの「知識」をより多く持っていることが自慢の種になるという偏った価値観。こういう価値観が、例えば「早く結末が知りたい」、「話題に乗り遅れ」たくないという考え方の背後にある。

 僕は大学の受験勉強をほとんどしないで大学に入った人間である。受験勉強で「知識」を詰め込むより、優れた本を読み、優れた映画を観ることの方がはるかに有意義だと信じていたし、今でもその考え方は変わっていない。高校3年の時に三百数十本の映画を観た。映画を観ていなければ本を読んでおり、本を読んでいなければ映画を観ていた。おかげで五つの大学を受けてすべて不合格、かろうじてある大学に補欠合格で入学した。今ではできないが、当時は普通の学費の二倍払えば追加で入学を認めていたのである。

 入学後周りを見回しても優秀な同級生がいるとは思えなかった。一年と二年の時はほぼオールAだった。受験勉強の知識がいかに真の学力を測るうえで無意味であるか身をもって体験した。ある時、妹が徳川家の将軍一五代全員の名前を言えることに、それも順番まで間違えずに言えることに驚愕したことがある。自分にはとてもまねできないし、したいとも思わないことだったからだ。調べれば簡単にわかるような(特に今ならネットという便利なものがある)「知識」をなぜ暗記しなければならないのか、僕には全く理解できない。必要になったら調べればいいだけではないか。

 そういう受験勉強に踊らされてきた人たちは、ごく一部の人を除いて人が知らないことを知っていることに満足感を覚える感性を身につけてしまっている。そういう価値観を身に着けている人の一部は、例えば、重箱の隅をつつくようにして人の知らないことを掘り返してくることに喜びを見出す。すぐれた作品だが忘れ去られていた貴重な作品を発掘するに至ることはまれである。だから結局オタクになってゆく。

 こういう感性または価値観が、映画を早送りで観ることの背後に間違いなくある。ただ見たということだけで満足する。話題について行けることで満足する。その程度で話題についてゆけるのだとすれば、相当に底の浅い会話だということになる。逆にオタクのように重箱の隅をつつくような、あえて言わせてもらえば、どうでもいい知識を自慢げに披露する方向に向かう人もいるが、そういう人たちは作品全体を深く理解できていないことは言うまでもない。世間で言う「映画通」とはこういう半端な知識しかもっていない人を指していることが多く、そういう人たちはなるほどと感心するような映画評を書くことはできない。作品を味わい、深く分析することなどできないのだ。こういった人たちは、早送りではなく普通の速さで観ても大して理解度が深まるわけではない。

 こういう人たちが大量に生まれてきたことには日本の教育の仕方に問題があることは言うまでもない。考え分析することより、膨大だが断片的かつ浅薄な知識を覚えることに時間を費やす教育。そういう教育を長年受けてきた結果なのだ。ツイッターという短い文で何かを伝えたつもりになっているのも根は同じだ。長い文はかけないし、長い文を読む力も根気もない。物事を一面的で短絡的にしか見ないから、短い文で事足れりと思い込んでしまう。長さではなく、早いことをよしとする考え方もまた同じである。例えば映画を例にとれば、深い解釈や分析ができないから、人より早く新作を観ることに血道をあげる。全く内容のない紹介文を人より早くSNSなどに投稿して優越感を感じる。どうでもいいような細切れ「知識」を披露して「通」を気取るのも同じこと。それしかできないからそうするわけだ。

 こういう現状を考えてみれば、タモリの「ブラタモリ」は非常に優れた番組だと言える。ある街(町)を一般的な紹介の仕方とは全く違った角度から見直す。地理的、地質的、地形的な特質から街の歴史や成り立ちを見直してゆく。何でも知っているプロはだしのタモリの知識も、ただ断片的なものではない。彼はなぜこうなるのかを自分の言葉で説明できる。互いにつながりのない点のような知識の寄せ集めではなく、豊富な知識が線や面となってつながっている。だから成り立ちを説明できるし、推測もほとんど当たるのである(的中率の高さは驚異的だ)。「ブラタモリ」を観た後は、同じ街(町)が全く違って見える。

 僕の文章は総じて長いので、90%以上の人は滞在時間0秒か10秒以内に他に移ってしまう。僕の文章の内容がどうとかいう以前に、その長さと文字ばかりがずらっと並んでいるのを見た瞬間に拒否してしまう。ただ長いというだけで避けてしまう。こちらも読みたいと思う人に読んでもらえればいいので、それでも別に構わない。ただ面白いことに、毎年必ず閲覧数を稼ぎ、秒殺でよそへ行ってしまうのではなく、一応内容を観ていると思われる記事がいくつかある。とは言え、最後まで読み切っているわけではなく、使えそうだと判断した時点でコピーしては慣れてゆく場合がほとんどだと思われる(滞在時間から判断して)。

 どういう記事かというと、イギリス小説を取り上げた記事である。つまり授業のレポートを書く際の「資料」として使われているようなのだ。普段は0秒で去ってゆく人たちも、必要に迫られると仕方なく目を通す。読んでもらえるのはうれしいが、ただコピペして剽窃しているようなら困ったことだ。もっとも最近は手が込んできて、多少手を加えて引用元がすぐ分からないようにしていることが多いようだ。不特定多数の人に読んでほしいからブログに掲載しているのだが、ルール違反の盗用はいけない。こういうことがはびこるのも、自分の頭で考え、分析するのではなく、手っ取り早く結果を出せばいいという文化が生み出したことだ。このように、これまで述べてきたことはすべて根っこでつながっている。もちろんきっかけはレポートの素材探しだったとしても、面白そうなブログだと思って時々見に来てくれている人もいることはアクセス数の分析からわかります(当ブログへの入り口がイギリス小説を取り上げた記事である場合は、そのページをブックマークに入れたからだと判断できるので)。そういう方たちもひっくるめて批判しているわけではありません。

 人々の判断力、思考力を奪っているのは暗記中心の教育の在り方だけではなく、校則という縛りも手を貸していると思われる。全く正当な理由もなく理不尽な規則を一方的に押しつけ、生徒をがんじがらめにする。校則ではなく「拘束」と書き直したいくらいだ。しかも優等生ほどこれを素直に受け入れて、うまく立ち回る。知らぬ間に判断力、思考力を奪われ、規則に従うことが正しいことだと刷り込まれてゆく。いつの間にかその校則が本当に必要なのか疑う力を奪われている。文科省が作りたいのは何も疑わずただ上からの言いなりになる人間の育成なのかと疑ってみることもできない人間が大量に生産される。難しいことは偉い人に任せておけばいいという受け身的な考えが知らず知らずのうちにしみついてしまう。何度選挙をやっても自民党が勝つはずだ。どうしてそれが必要なのかを疑う、様々なことに疑問を持つ習慣が早い段階で摘み取られてゆく。上から言われたことをそつなくこなす人が出世する。そういう社会がこうして作られてゆく。

 不当に自由を奪う校則に何の疑問もなく従うメンタリティは、言われた通りにできないものを怒鳴りつけ、罵倒し、何でもいいから言われた通りにやれと押しつける人間を作り出す。黙って受け入れてきた人は、黙って受け入れることを他人に強要する。相手にわかりやすく、かつ筋の通った説得をする力を持たないからだ。おまけに本人もストレスを抱えているので(その人自身も会社のコマの一つに過ぎない)、なおさら叱り飛ばし、怒鳴りつけるしかない。物事を立ち止まってよく考えない人たちが先も見えずただうろたえるばかりの、効率一辺倒の息苦しい社会。自分で自分の首を絞めながら、他人の首も絞めている。負の歯車は回り続ける。これを止めるには、立ち止まってよく考え、何事にも疑問を持つことから始めなければならない。

 

2022年7月17日 (日)

「白い道」、東京の下町訛り

 まだ東京に住んでいた頃だから1980年代の初め頃だろうか。どこか東京の下町あたりで浅草へ行く道を聞いたことがある。誰か明らかに地元の人と思われそうな人がいないかと探していると、前からまるで沢村貞子のような感じの女性が歩いてきた。顔が似ているというのではない。その佇まいや服装からまるで沢村貞子がスクリーンから抜け出てきたような感じがしたのである。この人なら間違いなく地元の人だと確信して、道案内を乞うた。

 その人が言うには、そこの路地に入ってまっすぐ進むと白い道に出るので、そこを右だったか左だったかに行けばよいとのことだった。「白い道」というのがどういう道なのかよく理解できなかったが、とにかく言われた通りに歩いて行けばわかるだろうと考え、特に質問もせずお礼を言って別れた。

 路地に入り、道々「白い道」のことを考えていた。どうして道が白いのか。白い横断歩道がやたらとある道なのか、それとも何らかの理由で道を白く塗ってあるのだろうか。それにしても何で道を白く塗る必要がある?そんなことをあれこれ考えながら歩いているうちに、ふとある考えが浮かび、謎が解けた。

 実はすぐその半年くらい前だったか、朝日新聞の「天声人語」に東京の下町訛りのことが書いてあったのを思い出したのだ。東京にも訛りがあるのかと驚いたが、下町あたりでは「ひ」と「し」が逆になるというのだ。潮干狩りが「ヒオシガリ」に、彼岸と此岸が逆になる。ということは、あのおばさんは「広い道」と言っていたのだ。つまり細い路地を抜けると大通りに出ると説明していたのだとやっと理解できた。実際やがて大通りに出た。

 下町訛りがあることは知識として知ってはいたが、実際に聞いたのはこの時が最初で最後だった。あの時あのおばさんに道を聞いてよかった。あの時のおばさん、ありがとう。おかげで得難い経験ができました。ところで、都会の訛りと言えばロンドンの労働者の言葉コックニーも有名だ。この訛りの典型は「エイ」が「アイ」になること。テイプ(日本語表記ではテープ)がタイプに、「デイ」が「ダイ」になってしまう。

 有名なエピソードは「マイ・フェア・レディ」に出てくるレックス・ハリソンがオードリー・ヘプバーンの訛りを矯正するシーン。彼はヘプバーンにThe rain in Spain stays mainly in the plain.という文を何度も発音させるが、何度試しても彼女は「ザ・ライン・イン・スパイン・スタイズ・マインリー・イン・ザ・プライン」と発音してしまうのが可笑しい。オーストラリアにも同じ訛りがある。この訛りを実際に経験したことがある。90年代にイギリス南部のブライトンにある語学学校で2週間ほど語学研修を受けたことがある。その時の先生の一人がこの訛りを話していた。最初のうちは慣れないので頭の中で「アイ」を「エイ」にいちいち変換していたが、帰るころには意識しなくても自然に入ってくるようになっていた。

 そういえば、小学生のころ、東北訛りの先生がいて「い」と「え」が逆になっていた。いや、「い」と「え」がほとんど同じになって区別がつきにくかったということだったかもしれない。いずれにせよ、生徒もそれが分かっているのでやはり頭の中で変換しながら聞いていたと思うが、ある時訛った結果全然別の単語になってしまい(上の「白い道」のような感じだ)、生徒全員がぽかんとしていたことがあった。先生もそれに気が付いていろいろ言いなおしてくれたのでやっと理解できた次第。それが何という言葉だったかは覚えていないが、これも懐かしい思い出だ。

 もちろん僕も茨城県出身なので当然茨城弁を話していた。イントネーションは直せるので、これには苦労した覚えはないが、アクセントだけはどうにもならない。何せ同音異義語をアクセントで区別するという習慣自体が存在しないのだ。川にかかる橋も、ご飯を食べるときの箸も、すみっこという意味の端もすべて同じアクセントになる。アクセントを意識するという習慣そのものが存在しないので、アクセントが合っているのかも違っているのかも分からない。聞き分けられないから発音もできない。ある時「古事記」と言ったつもりが、お前の発音では物乞いする「乞食」になると言われびっくりしたことがある。そもそもアクセントと僕が言うと、「悪戦苦闘」と聞こえるとまで言われた。直しようがないので、東京に来た最初のころから気にしないことにした。茨城県人は文脈で判断するので、お前らもそうしろというわけだ。おかげで、言葉で悩んだことはない。アクセントの間違いを指摘されたら、その時覚えればいい(指摘されないと分からない)。

 そういえば、方言を標準語だと思い込んでいる場合もある。もうだいぶ前だが、NHKの教育テレビ(今のEテレ)で方言の話をしていた。その中で茨城弁を取り上げていくつか例を挙げていた。それを観て初めて「青なじみ」が方言だとわかった。これはショックだった。標準語だと思っていたからだ。千葉県の船橋市出身の同僚に聞いたら、彼を同じように驚いていた。船橋でも「青なじみ」という言葉を使っていて、標準語だと思っていたのである。標準語の「青あざ」に当たる表現だが、今じゃ実家あたりでも使う人は少ないかもしれない。

 先にあげた「マイ・フェア・レディ」の例がそうだが、発音というのはなかなか治らないようだ。タイトルは忘れたがあるアルゼンチン映画でこんな場面があった。アメリカ人が自分の名前をソーントンだと紹介するのだが、相手のアルゼンチン人はトルトンとしか発音できない。何度直してもトルトンのまま。この場面が妙に可笑しかった。

 もちろん地域独特の発音や語彙があってしかるべきだ。どんどん方言がなくなってきている今ではむしろ方言を残す努力をしなければいけない状況になっている。方言や訛りは絶滅危惧種だ。東京の下町訛りは今でも残っているのだろうか。全国どこに行っても同じような家が建ち、同じチェーン店があるというのも味気ない。

私家版 Who’s Who その2 ソン・ガンホ

【ソン・ガンホ】1967年生まれ、慶尚南道金海市出身

 韓国のフランキー堺、ソン・ガンホ。チェ・ミンシクやアン・ソンギと並ぶ、今やだれ知らぬものない名優である。彼を取り上げる気になったのは前回の江口のりこ同様、朝日新聞別刷「be」 2022年7月16日付「今こそ!見たい」シリーズの<韓国映画ランキング>で上位3作をソン・ガンホ出演作が占めていたからだ。1位は「パラサイト 半地下の家族」、2位は「シュリ」、3位は「ベイビー・ブローカー」。新作の「ベイビー・ブローカー」はまだ観ていないが、新作で今一番観たいと思っている映画だ。参考までに4位以下も並べておく。

4位 「私の頭の中の消しゴム」
5位 「JSA」
6位 「猟奇的な彼女」
7位 「タクシー運転手 約束は海を越えて」
8位 「王になった男」
9位 「シルミド」
10位 「八月のクリスマス」

 あまりにお涙頂戴的な「私の頭の中の消しゴム」以外はいずれも好きな映画だ。5位の「JSA」と7位の「タクシー運転手 約束は海を越えて」もソン・ガンホ主演。おすすめの韓国映画については「ゴブリンのこれがおすすめ46 韓国映画+韓国TVドラマ」も参照していただきたい。

 ソン・ガンホはフランキー堺同様、天才的な役者である。基本的にコメディが似合うイメージだが、もちろんシリアスなドラマでも十分実力を発揮できる。どんな役を演じてもハマるからすごい。出演作はかなりの数に上るが(これまでに観た彼の映画は15本)、彼の出る映画に駄作はない(すべて傑作とまでは言わないが)。

 韓国の映画やテレビ・ドラマは新陳代謝が異様に早い。どんどん新しい才能が生まれてくる。その中でソン・ガンホは揺るがぬ地位を築き続けている。美男・美女ひしめく中で、どこから見ても普通のおじさん的ルックスの彼が演技力と人柄で抜きん出ているというのは並大抵の才能と努力ではない。韓国映画を支える屋台骨のような存在だと言っても過言ではないだろう。是枝裕和監督の「ベイビー・ブローカー」をはじめ、これからどんな映画と出会えるか楽しみでならない。

 

<ソン・ガンホ出演作 おすすめの10本>
「パラサイト 半地下の家族」(2019)ポン・ジュノ監督
「タクシー運転手 ~約束は海を越えて~」(2017)チャン・フン監督
「弁護人」(2013)ヤン・ウソク監督
「シークレット・サンシャイン」(2007)イ・チャンドン監督
「グエムル 漢江の怪物」(2006) ポン・ジュノ監督
「大統領の理髪師」(2004) イム・チャンサン監督
「殺人の追憶」(2003)  ポン・ジュノ監督
「反則王」(2000) キム・ジウン監督
「JSA」(2000) パク・チャヌク監督
「シュリ」(1999) カン・ジェギュ監督

次点「観相師」(2013)ハン・ジェリム監督

*色が変わっている作品は、本ブログ内の作品レビューや短評へのリンクが張ってあります。

 

2022年7月16日 (土)

私家版 Who’s Who その1 江口のりこ

【江口のりこ】1980年生まれ、兵庫県姫路市出身

 いつの時代にも売れっ子はいるが、この1,2年で際立って注目度を挙げた女優を個人的に挙げると江口のりこと市川実日子である。市川実日子はだいぶ前から個人的に好きだったが、世間的にはあまり注目されてはいなかったように思う。それがこの数年なぜか引っ張りだこの売れっ子ぶり。やっと彼女の時代が来たかとうれしい限りだ。

一方、江口のりこの存在を意識し始めたのは去年かせいせい一昨年あたりからかもしれない。とりわけ気に入ったのは「悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?」。それまでは黒ずくめの服が似合って、怖いがどこか憎めないという役柄が多いという印象だった。そのイメージを覆したのが「悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?」で演じた主人公(今田美桜)の上司役。ドレスアップするとこんなに魅力的な女性になるのかと正直驚いた。おちゃめな面も見られて、すっかり彼女の魅力にはまってしまった。

 彼女に注目しているのは何も僕だけではないと感じたのは朝日新聞に載ったあるアンケートを見た時だ。朝日新聞別刷「be」 2022年5月28日付「今こそ!見たい」シリーズの<女性の名脇役ランキング>で1位に選出されたのである。それも2位以下を引き離してダントツの1位。ちなみにベスト10を挙げておく。

1位 江口のりこ
2位 木村多江
3位 キムラ緑子
4位 余貴美子
5位 吉田羊
6位 宮本信子
7位 戸田恵子
8位 濱田マリ
9位 市川実日子
10位 木村佳乃

 錚々たる面々である。市川実日子も9位に入っているのがうれしい。やはりここ数年の活躍ぶりが反映されているのだろう。さて、話題を江口のりこに戻すと、これだけうまい女優がどうしてつい最近まで視野に入ってこなかったのかとずっと疑問に思っていた。その理由として一番考えられる可能性は、舞台中心に活躍していて、テレビに出演するようになったのは最近になってからだからではないかというもの。上記アンケートの記事によると、どうやらその推測は当たっていたようだ。劇団東京乾電池で最初は活躍していたらしい。そこから徐々に映画、テレビまで手を広げるようになったようだ。

 僕がこれまで観てきた範囲では映画よりもテレビ・ドラマの方が多い。最後にお気に入りリストを付けるが、役柄としては普段は目立たないが、これという時にズバッと的を射た発言をするというのが多いように思う。まさに名脇役という存在だが、なんと主演作もある!「ソロ活女子のススメ」がそれ。1話25分程度だが、主演なので江口のりこをたっぷり堪能できる。ファンにとってはまさに至福の時。これと先に名前を挙げた「悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?」が現時点では彼女の代表作だと個人的には思っている。

 映画は今のところ5本しか観ていないが、テレビ・ドラマに比べると印象が薄いのは否めない。ここでは1本だけ挙げておきたい。「横道世之介」という映画だ。江口のりこはほんのちょっとしか登場しない。主人公(高良健吾)がある人物のアパートを訪ねて行ったときに、隣の部屋の窓から顔をのぞかせるだけの役である。しかしそれだけでものすごい存在感を醸し出している。頭しか出てこないのにしっかりと江口のりこらしさをアピールしていた。この場面を観てある有名女優のエッセイの一節を思い出した。高峰秀子の名著『私の渡世日記 上巻』(文春文庫)にこれと似たような場面が描かれている。高峰秀子が豊田四郎監督の「小島の春」(1940)の完成試写を観た時の話である。

 私が身を乗り出したのは・・・あるハンセン病患者を訪ねる場面であった。たぶん、醜く崩れた顔をさらしたくないためだろう、あくまでも女医に、つまりカメラに背を向けたまま、物干し竿から洗濯物を取り込む女の、その演技のずばぬけた上手さ、巧みさ、素晴らしさ!・・・私はうめいた。「これこそ演技だ!私が求めて、見たこともなかった芝居がここにあった!・・・こんなうまい俳優がこの世に居るとは知らなかった。チキショー!誰だお前は。いったい、どこのどいつなんだ!」
 それが杉村春子という名女優と私との出会いであった。(p.268)

 

<TVドラマ おすすめベスト5> 江口のりこの演技で選んでいますが、星数は作品全体に対する評価です。

「悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?」(2022) ★★★★☆
「ソロ活女子のススメ」(2021)★★★★☆
「その女ジルバ」(2021)★★★★☆
「半沢直樹」(2020) ★★★★☆
「名もなき毒」(2013) ★★★★☆

<映画> おすすめは「横道世之介」1本だけですが、それでは寂しいので、これまで観た5本を全て並べておきます。

「仮面病棟」(2020) 木村ひさし監督 ★★★★▽
「彼らが本気で編むときは、」(2013)荻上直子監督 ★★★★△
「横道世之介」(2012)沖田修一監督、日本 ★★★★△ 
「ハッピー・フライト」(2008)矢口史靖監督 ★★★★☆
「百万円と苦虫女」(2008)タケダユキ監督 ★★★★

 

 

2022年7月 2日 (土)

ロシア侵攻前のキーウの様子を映し出した貴重な映像 「世界ふれあい街歩き ウクライナ キエフ」再放送

 「世界ふれあい街歩き ウクライナ キエフ」が再放送されたのは6月14日(火)午前0:25分。録画しておいたが、観たのは7月1日だった。今観るとつらいことはわかっていたので、なかなか観る勇気が出なかったのだ。

 

 「世界ふれあい街歩き ウクライナ キエフ」が撮影されたのは2019年。今から3年前、ロシアによる本格的侵攻が始まる前だった。「世界ふれあい街歩き」シリーズは前から好きな番組で、毎回楽しく観ていた。しかし今回の再放送は涙なしには観られなかった(ただし19年に放送されたときは観ていなかった)。同じ映像作品が、観るときの状況次第でこれほど劇的に印象が変わるものか、そういう思いが深く深く心に刻み込まれた。あの人たちは今どこでどうしているのだろうか、あの建物はあの形のままで残っているのだろうか、そう思いをめぐらさずにこの映像を観ることはできない。

 

 何より戦争が起こった後から作られたものではないということが重要だ。当然編集はされているだろうが、この番組の素晴らしさは通る道筋だけ基本的に決めておいてあとはその場で出会った店や人々に気軽に声をかけるというあくまで自然体の街歩き記録だということだ。だからこそ作り物ではない、ありのままの街の姿が映し出されているのである。そしてだからこそ、その美しい街並みや街を楽しそうに歩く人々の姿や笑顔が今は失われてしまったという冷徹な事実が観る者に鋭い痛みと共に伝わってくるのだ。

 

 道沿いの露店の賑わい、チェルノブイリ原発事故博物館、キエフ最古の聖ソフィア大聖堂(建てられた当時はキエフ公国という国だった)、それとなく映されるひまわり畑(イタリア映画の名作「ひまわり」のひまわり畑はウクライナで撮影されたことが分かり、ロシア侵攻後全国各地で「ひまわり」のリバイバル上映が行われた)、独立記念塔と独立広場(2004年のオレンジ革命の舞台となった)、追放されたロシア系大統領の別荘を見学する汚職博物館ツアー(相当私腹を肥やしていたようだ)、自転車でパトロールする警察官(取材班が自転車ツアーのメンバーかと勘違いして話しかけたのも無理はないと思わせる素敵なユニフォーム姿が印象的)、ウクライナの伝統的な楽器バンドゥーラ(なんと22弦もある)を演奏する男性、ボルシチなどのウクライナ料理ベスト3の紹介、水色の壁と黄金色の屋根が美しい聖ミハイル黄金ドーム修道院、キエフ郊外のコパウチ村にある中世のテーマパーク(9世紀から13世紀にあったキエフ公国の首都キエフを再現している、当時の衣装を着て歩き回ることができる)、復員兵が子どもたちにピザの作り方を教える教室(子供たちはピザ作りを楽しみ、帰還兵は心の傷を癒す)等々。どの場面を取っても魅力的だ。ため息が出るほど美しい街。

 

 しかし、この平和な日常の中にも戦争の影が至る所に顔を見せていた。ロシアとヨーロッパのはざまで揺れ続けてきたウクライナの歴史。この2019年の時点でもロシアがクリミア半島を併合し、ウクライナ東部で起きた紛争はまだ解決されていなかった。それを象徴するのはロシアとの戦闘で戦死した兵士たちの写真が一面に飾ってある長い壁だ。その写真の説明をしていた男性は戦友二人の顔写真を指さす。どこか不機嫌なような、暗い表情だったが、一緒に連れていた子供の話になると途端ににこやかな表情に変わった。そこに救いを感じほっとした。

 

 2019年の時点ではまだ戦争の影程度だったが、ロシアによるウクライナ侵攻下という状況で観ると、撮影時には思いもよらなかった意味が二重三重に付け加えられる。とりわけ印象深いシーンが3つある。一つは新しくできた橋の横に建っている巨大なアーチ。ロシアとウクライナの友愛を象徴しているアーチだという。しかしその頂点近くに黒い線がちょうどひびが入ったようにギザギザに塗られている。子どもが説明していた。あれはロシアとの関係に入った亀裂を表しているのだと。その後のロシア侵攻を考えると何とも皮肉な映像だ。あのアーチはロシア侵攻後に壊されてしまったかもしれない。

 

 二つ目は聖ミハイル黄金ドーム修道院の前で修道士に聞いた話。ここには独立広場で市民と治安部隊が衝突したときに多くの負傷者が運び込まれた。独立広場で亡くなった人たちが運び込まれてきたときのこと。1台の携帯が鳴りだした。電話に出てその携帯の持ち主が死んだことを伝える勇気を持つ者は一人もいなかった。呼び出し音はいつまでも鳴り響いていたという。その夜修道院はすべての鐘を鳴らした。鳴り響く鐘の音に独立広場での治安部隊の動きが止まり、独立広場は静かになった。それはまさに平和の鐘だったと修道士は語る。放送当時に観ても心に残る言葉だったに違いないが、今観るとその言葉がなおさら深く観る者の胸に突き刺さってくる。

 

 そして3つ目は当時のナレーションを担当したイッセー尾形が最後に引用した言葉だ(再放送時、元の映像の前後に新たに付け加えられた彼の解説が付いている)。それは前述の聖ミハイル黄金ドーム修道院内部で、ロシア北西部から姉のいるキエフに来た女性がろうそくの炎の前で言ったセリフだ。「世界中の人が仲よくなれるように、みな健やかで幸せでありますように」と彼女は祈っていたという。ロシア人女性が言った言葉だということも含めて皮肉な響きが混じってしまうのは避けられないが、それでも彼女の言葉はそれを超えてストレートに我々の胸に響いた。だからこそイッセー尾形も最後に引用したのだろう。映像作品は生きている。誰がいつどこでどのような状況で観るのかによって映像から思わぬ意味合いが引き出されてくる。私たちは今を生きている。しかしその「今」は常に変化している。すぐれた番組・作品はその変化に耐えられる。常に新しい意味をまといながら輝き続けるのである。

 

2022年7月 1日 (金)

先月観た映画 採点表(2022年6月)

「さらば、わが愛 覇王別姫」(1993)チェン・カイコー監督、香港 ★★★★★
「護られなかった者たちへ」(2021)瀬々敬久監督、日本 ★★★★☆
「見知らぬ乗客」(1951)アルフレッド・ヒッチコック監督、アメリカ ★★★★☆
「湯を沸かすほどの熱い愛」(2016)中野量太監督、日本 ★★★★△
「戦場」(1949)ウィリアム・A・ウェルマン監督、アメリカ ★★★★△
「ヒトラーの贋札」(2007)ステファン・ルツォヴィツキー監督、ドイツ・オーストリア ★★★★△
「アジョシ」(2010)イ・ジョンボム監督、韓国 ★★★★△
「砂塵」(1939)ジョージ・マーシャル監督、アメリカ ★★★★△
「インスタント沼」(2009)三木聡監督、日本 ★★★★△
「ミュージアム」(2016)大友啓史監督、日本 ★★★★△
「横道世之介」(2012)沖田修一監督、日本 ★★★★△
「ライド・ライク・ア・ガール」(2019)レイチェル・グリフィス監督、オーストラリア ★★★★△
「ランジュ氏の犯罪」(1936)ジャン・ルノワール監督、フランス ★★★★△
「散歩する霊柩車」(1964)佐藤肇監督、日本 ★★★★△
「人生模様」(1952)ヘンリー・コスター、他、監督、アメリカ ★★★★
「黄線地帯(イエローライン)」(1960)石井輝男監督、日本 ★★★★
「スティルウォーター」(2021)トム・マッカーシー監督、アメリカ ★★★★
「折れた矢」(1950)デルマー・デイヴィス監督、アメリカ ★★★★
「セクシー地帯(ライン)」(1961)石井輝男監督、日本 ★★★★
「ペトラは静かに対峙する」(2018)ハイメ・ロサレス監督、スペイン・仏・デンマーク ★★★★▽
「仮面病棟」(2020)木村ひさし監督、日本 ★★★★▽
「マイ・ボディガード」(2004)トニー・スコット監督、アメリカ・メキシコ★★★★▽
「踊子」(1957)清水宏監督、日本 ★★★★▽
「はりぼて」(2020)五百旗頭幸男、砂沢智史監督、日本 ★★★★▽
「十二人の死にたい子どもたち」(2018)堤幸彦監督、日本 ★★★☆
「シールド・オブ・プラネット 異星人と予言の書」(2018)マックス・クションダ監督、ウクライナ ★★★☆
「劇場版 シグナル 長期未解決事件捜査班」(2020)橋本一監督、日本 ★★★☆

 

主演男優
 5 チャン・フォンイー「さらば、わが愛 覇王別姫」
   ロバート・ウォーカー「見知らぬ乗客」
   佐藤健「護られなかった者たちへ」
   カール・マルコヴィクス「ヒトラーの贋札」
   レスリー・チャン「さらば、わが愛 覇王別姫」
   チャールズ・ロートン「人生模様」
   ウォンビン「アジョシ」
   ジェームズ・スチュワート「砂塵」
   西村晃「散歩する霊柩車」
   小栗旬「ミュージアム」
   天知茂「黄線地帯(イエローライン)」
 4 ブルース・コーリング「戦場」
   マット・デイモン「スティルウォーター」
   高良健吾「横道世之介」
   ジェームズ・スチュワート「折れた矢」
   阿部寛「護られなかった者たちへ」
   デンゼル・ワシントン「マイ・ボディガード」
   坂口健太郎「仮面病棟」
   坂口健太郎「劇場版 シグナル 長期未解決事件捜査班」

主演女優
 5 コン・リー「さらば、わが愛 覇王別姫」
   宮沢りえ「湯を沸かすほどの熱い愛」
   麻生久美子「インスタント沼」
   テリーサ・パーマー「ライド・ライク・ア・ガール」
   春川ますみ「散歩する霊柩車」
 4 バルバラ・レニー「ペトラは静かに対峙する」
   マレーネ・ディートリッヒ「砂塵」
   杉咲花「十二人の死にたい子どもたち」
   淡島千景「踊子」

助演男優
 5 アウグスト・ディール「ヒトラーの贋札」
   妻夫木聡「ミュージアム」
   チャールズ・ウィニンガー「砂塵」
   サム・ニール「ライド・ライク・ア・ガール」
 4 渥美清「散歩する霊柩車」
   ジェフ・チャンドラー「折れた矢」
   スティーヴィー・ペイン「ライド・ライク・ア・ガール」
   風間杜夫「インスタント沼」
   加瀬亮「インスタント沼」

助演女優
 5 杉咲花「湯を沸かすほどの熱い愛」
   江口のりこ「横道世之介」
 4 三原葉子「セクシー地帯(ライン)」
   吉高由里子「横道世之介」
   三原葉子「黄線地帯(イエローライン)」
   カミーユ・コッタン「スティルウォーター」
   清原果耶「護られなかった者たちへ」
   キム・セロン「アジョシ」
   相田翔子「インスタント沼」

 

«これから観たい&おすすめ映画・BD(22年7月)